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律儀【エッセイ】二六〇〇字

 日課としている朝風呂の最中。決まってある時刻、7時24分位に上空を白い物体が通過することに、ある日、気づく。
 住まいの集合住宅は、新宿区にある。羽田近辺の大田区や川崎市、通過域になる千葉や神奈川とは違って飛行機を見かけることはないと思っていた(2020年2月から開放された「羽田新ルート」の時間帯以外は)。それだけに、少年のように心を躍らせた。浴槽につかって「いい湯だな~」なんて鼻歌まじりのときであるから、なおさらである。
「飛行船か? にしちゃ高すぎるし、動きがそこまでゆっくりじゃない。やはり飛行機だろうか…スーパーマンじゃないことだけは確かだ」なんて、思いながら。
(書き忘れたが、わが集合住宅の浴室はベランダに面していて、窓がある)

 その“確認”飛行物体との遭遇をきっかけに、朝風呂の時間を30分遅くらせ7時に変更した。
 ちなみに、入浴前は、こうなる。起床は6時(そのために、夜は遅くても10時には就寝する)。起床後、まずトイレ。その横に位置する玄関のドアから、ヌーっと手を出し新聞をピックアップ。バスのスイッチON。コーヒーを淹れる。ベッドメイク。血圧・脈拍・体温を測定、エクセルに入力。そして、ベランダでコーヒーを飲みながら、新聞を読み始める(noteのアップ日なら原稿の推敲)。「天声人語」、「折々のことば」を読み、テレビ欄でドジャースの放送時間を確認。社会面から一面まで逆捲りするのだ。社会面は訃報欄から始める。享年が90歳以上なら、そこまでワタクシもあやかりたいと思い、70歳代以下だと、オレもそろそろかもヨ、と、言い聞かせる。記事の見出しを流し読みし、再読すべきは赤ペンで二重丸。とくに興味ある話題には、花丸をする。地域面、生活面、文化面、スポーツ面、「声」などオピニオン面、海外面、経済面、政治面と進み、2面~4面の出版広告をチェック、一面に戻る。東京新聞のコラム「筆洗」を読んだところで・・・7時。バスタイムになる。
 むろん、バスルームも流れ作業。下半身のお清め(!?)から始まり、頭部からシャワーを充分に浴びる(頭皮脂保護のため、シャンプーは使わない)。フェースクリームを手のひらで泡立て、顔面から全身に手繰ぬたぐる(皮脂保護のため、タオルでゴシゴシしない)。髭を剃る。そして、浴槽に入ると、窓を開け、脊柱管狭窄症を患ってから欠かしていないストレッチのセットをこなす。
 と、
 あの日の遭遇前までは、ここでバスタイムが終了するのだが、その飛行物体を目撃してからは、通過を確認するまで、ストレッチをワンセット増やすことにした。ほとんどは、その間に通過してくれている。晴れている日は、白いボディがキラキラと光って通過する姿は、感動を覚える。それでも確認できなかった日は、やるべきルーチンをサボったような気分になり、精神衛生上、よろしくない。
 浴室を出るのは7時30分なので、10、20分の「Delay」があれば観られないだろうから、常にというわけではない。のだが、観られないと、振られた感じがして正直さびしさを覚える。

 何回かお会いできなかったことが続き、ふと飛行機の軌跡を追うアプリがあることを思い出し、その便の正体を調べることにした。「フライトレーダー」である。
 バスタイムを早め、いつもの時間帯にアプリをチェックしてみた。すると、新宿区の北に位置する北区、練馬区以北の上空を通過する便が多く、その機影は小さく、凝視しないと気づかないことが判明。浴室から見える物体は、新宿区か隣の豊島区上空を通過するだろうから、そのルートを飛ぶ便を待つ。すると、その時刻、7時25分に西に向かう飛行機が、確かにあった。羽田が7:15発、広島空港8:40着のANA671便であることがわかった(アプリにその情報が表示される)。実際の離陸が20分遅れで、7:42に通過(私のPCの時刻表示)しているので、定時発とすると7時24分位になる。

Flightradar24

 正確さは列車ほどではないが、日本の飛行機は海外に比べれば、かなり正確なもんだ(なんて言いきれるほど、海外経験が多くはないが…)。
『Flight Magazine』という専門誌の発行元、Cirium社のサイトには、空港別「定時出発(率)ランキング」があり、羽田が90.33%でトップとなっている。また、航空会社別「定時到着(率)ランキング」では、ANAが、88.61%で2位、JALが、88.00%で3位になっている(1位は、アズールブラジル航空の88.93%)。

かように、浴室から見られる“確認”飛行物体は、とても真面目であると思うが、さらに上をいく「物体」の存在を、新たに発見した。
 わが集合住宅から500メートル離れた位置にスーパーがあり、20台位の縦長駐車場がある。その一番奥の位置に決まって停める車があるのだ。ブルー色のトヨタ・アクアである(TOP画像)。入浴中か、その前に停車するのだろう。ある日、ベランダで新聞を読み終えて外を見ると停まっていたので、7時前には到着していることになる。10時開店だから、3時間前。社員かもしれない。というのは、見かけないのは、月曜日。そして火曜日が隔週くらい。ちなみにTOP画像は6月10日に撮影した。月曜日である、休日出勤だろうか。社員にしても、管理職クラスと推測される。
 気になるので、スーパーに寄ったついでに駐車場まで足をのばし、車を確認してみた。すると、大宮ナンバーだった。通勤となると高速は使わないだろうから、少なくても一時間半以上はかかるだろう。となると、5時半前には自宅を出ている。となると、4時ごろには起床していることになる。そんなお方のおかげで、ワタクシの食は成り立っている。感謝感謝である。

 飛行機の話に戻ると、わが東京の西側には、ご存知のように上空に「横田空域」というのがある(日本が独立国家とは言えない事実のひとつである)。のだが、東京五輪に合わせて、2020年2月から「羽田新ルート」として、時間限定であるが、南風の日の15時から19時に低空飛行が可能になった。ルートの真下にあたる西新宿や中野区の住人は、その騒音が迷惑だろう。
 が、ちょっと外れるわが住処からは羽田に向かう飛行機の機影を見物できる。
 晴れた日は、Flightradar24のアプリを立ち上げたスマホを横に置き、都庁の上あたりを滑空する大きな機影の正体を確認しながら、ベランダで読書することにしている。

(ふろく)
 彼の国の上空には、「Flightradar24」が表示する飛行機はない。

Flightradar24

wikipedia「Flightradar24」

2006年、2名のスウェーデンの航空ファンが、ヨーロッパ北部・中部のADS-B受信ネットワークの構築をスタートし、2009年に公開された。

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