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タクシードライバー【エッセイ】

 昨今、東京オリンピック仕様の、黒の箱型タクシーを多く見かける。イエローキャブやロンドンタクシーのブラックキャブの真似か。が、このタイプの車の運転手は、旧式よりも人当たりはいいが道を知らないヤツが、多い。
 ある日。新宿御苑近くで乗車したのだけど、なんと、甲州街道さえもわからなかった。案の定、遠回りしていつもより料金が高かった。
 「雲助」と蔑称していた昭和の時代は、確かに荒っぽく愛想は悪いけど、道に精通していて、職人肌。運転がうまかった。近道にも詳しく、狭い道をスルスルと走り抜け、ヒヤっとするときもあるけど、最短距離で、着く。
 いっそ初心者は料金を安く、ベテランは多めにとってもいいかも、とさえ思ってしまう。
 平成最後の三月。NYに行った。BS1の「地球タクシー」をまねて、拙い英語でも会話を楽しんだのだけど、イエローキャブの運転手は愛想もよく、運転がうまかった。ガッテン承知! と腕まくりしそうな雰囲気で、スムーズに目的地に着く。確かにマンハッタンは、碁盤の目の区画なので、わかりやすいということもあるけど。アベニューと、東か西の何丁目ストリートかを告げれば、着く。
 帰国の前日。ザ・メットからパークを散策しようと、グランド・セントラルからキャブに乗った。すると、無口で怖そうな黒人。昭和の運転手以上に荒っぽく、飛ばす。すると運転席の注意書きが、目につく。アソールティングという単語がわからなかったのだけど、「運転手は刑務所に二十五年入っていた」と解釈した。まさかと思いつつも、固まった。
 が、チップを多く出せば、危害を加えることはないだろうと、十ドル紙幣を渡した。すると、甲高い声で「センキュー」と、発した。
 (後で、意味を調べると、「運転手に暴力をふるうと、二十五年刑務所に入ることになるよ」という意味、だったのだ・・・)。

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