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サンドイッチ【エッセイ】六〇〇字

 「エッセイは、書き出しと結びが思いつけば、八、九割できたも同然。あとは、挟むだけ」と。私の師匠はよくおっしゃった(それが難しいのだけど・・・)。そういえば、新聞のコラム。朝日を購読しているので、「天声人語」を読んでいるが、そんな「挟み」を目にすると、洒落ているなと、思うことがある。
 半世紀前、大学受験で出題されることが多かった(いまも同じなのだろうか?)。「傾向と対策」本には必ず出ていたし、その名文ぶりに唸りながら、読んでいたものだ。
 しかし、師匠は「最近は、質の低下を感じる」と、口にする。朝日新聞社の書籍部長を経ているだけに、後輩には、手厳しい。だからというわけではないが、当時の文章より、感心して読む頻度が低く、絶妙な「挟みこみ」も、かなり少なくなったような、気がする。
 二〇二〇年の大晦日、「天声人語」を読んだあと、その左右にある広告が目に入った。日本酒の広告だった。右に、「マスクさん、ありがとう。 アルコール消毒さん、ありがとう。 うがい薬さん、ありがとう。 病院のみなさん、ありがとう。」というコピーがあって、左に、「ごめんなさい。マスク忘れたコト、ありました。 ごめんなさい。うがい忘れたコト、ありました。 ごめんなさい。手洗い忘れたコト、ありました。」(一行空いて)「ごめんなさい。お酒だけは忘れずに飲みました。大晦日も、沢の鶴で。」と。ふたつの広告で挟まれ、サンドイッチになっていた。

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