経産省が描いたシナリオ通りか
原子力行政は国会事故調が指摘した「規制の虜」に戻ろうとしているのではないか。
原子力業界と規制庁の意見交換
原子力業界は、2020年、原子力規制庁との計6回もの意見交換の場で、原発の運転期間から、運転期間の延長の際、停止期間を運転期間から除外して欲しいとリクエストした。
原子力規制庁は、原子力規制委員会にその報告を2020年7月22日に行い、わずか1週間で「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解(案)」を作成。
原子力規制委員会は、同月29日にその場でその見解案を了承。40年という運転期間は「立法政策として定められた」との見解でいなし、規制緩和を許さず、原発事業者の思惑は2年間眠り続けた。
2年前に仕掛けた目覚まし時計
2022年夏、原子力規制庁のトップ3が元経産省職員になるタイミングで、眠り続けた見解は、仕掛けておいた目覚まし時計のように鳴り始めた。ただし、「立法政策として定められた」という部分はミュートされ、「原子力規制委員会としては意見を述べる立場にない」というところが大音響で。経産省が、運転期間から停止期間を除外する方向で話が進んできた。(既報)
消えた「厳しくする姿勢」
現制度における運転期間延長の審査がズサンであることは、関西電力の高浜原発1・2号炉等の延長許可の取り消しを求める裁判などで明らかになってきた(既報)。
一方、山中原子力規制委員長は11月16日までは「安全規制についてはカレンダーイヤーで」、「利用政策側がどのような暦を使ってくるかに全然依存しない」(議事録)、記者会見では「はるかに厳しくなる」との姿勢を示していた。(既報)
しかし、11月30日の原子力規制委員会ではそれが反転。新制度は今より「厳しくなる」という記憶を持つ杉山智之委員が、それを打ち消し、矛盾をすり合わせる発言をした。
これに対して他2委員が同意。
田中知委員「今までやってきたことで十分に安全確認できる」
伴信彦委員「私もそういう認識でおりますので(略)ただ・・・」
つまり「より厳しくする」はずが、「今までやってきてことで十分」と上書きされた。これが前回の取材ノートに書いた「業界2年前の提案通りの疑念1」 だ。
疑念の2番目―30年開始案が40年に逆戻り?
続いて伴委員は、山中委員長の「カレンダーイヤー」論を覆し始めた。
これに対し、杉山委員が規制庁職員に確認を行う。
「特別検査」を隠した資料→課長「誤解」
ここで、伴委員が言い出した「プラスアルファ」の「特別検査」について、少し整理をしておく。「特別検査」については、以下の通り、11月2日、16日の検討案や説明に出てこない。「特別検査」は、11月30日の検討で金城原子力規制企画課長が説明する中(資料)で初めて出る。その説明をかいつまむと次のようなものだ。
現制度は、40年目の「運転期間延長認可」と、30年目から10年ごとに行う「高経年化技術評価」からなる。「特別検査」とは「運転期間延長認可」の申請の際、原発事業者が行うことの一つ。原発事業者は「特別点検」結果を含め以下3つを添付して期限延長を60年まで申請できる。
① 特別点検の結果:設備の劣化状況の点検結果
② 劣化状況評価書:延長期間における劣化の評価書
③ 施設管理方針:延長期間における設備管理方針
上記3つのうち②③は「高経年化技術評価」の手続と以下のように重複
② の劣化状況評価書は、10年ごとの高経年化技術評価と同じなので省略可。
③ の施設管理方針も、10年ごとの高経年化技術評価とイコール。
そこで、暦年で見れば、30年目は②③(高経年化技術評価)、40年目で①②③(運転期間延長認可)、50年目で②③(高経年化技術評価)を行うのが、現制度の流れだ。そこで、①「特別点検」は40年目にだけ行う「プラスアルファ」だというのが、伴委員の概念だ。
そして、現在検討中であるとして、11月2日に規制庁職員が原子力規制委員たちに示した「運転期間延長認可」と「高経年化技術評価」の合体案表で整理すると以下の通り。規制庁は、この表に、①の「特別検査」を記載しなかったのだ。
杉山委員の質問は、検討案は「30年を迎えるときに行う申請認可という行為は、40年目に今まで行っていたものと同等なもの」ではなかったのか。つまり、30年以降、10年ごとに、①②③、①②③を繰り返すのだと思っていた、という意味だ。運転期間延長申請の時にやっていた特別検査が30年目に早まるので、原発事業者には厳しいものになるのではなかったのか、という意味だ。
委員長「暦年」→伴委員「40年」→杉山委員「30年」→課長「改めて議論」→長官「暦年で40年目」「全然そんなタイミングに来ていない」
これに対する金城原子力規制企画課長の回答は、驚くような回答だった。
「ちょっと説明が足りなかった」とは「特別点検」を検討案の表で隠していたことを自覚しているということなのか。
これに、原子力規制庁トップに昇り詰めた元経産官僚の片山庁官は、課長に「補足」するとして、以下のように述べた。
これに田中委員が同調。杉山委員が一部留保姿勢を見せながら同調。山中委員長も以下のように同調した。
特別検査はプラスアルファなのか
特別点検は、先述したように「運転期間延長認可」時のスタンダードな3つ手続の一つだ。余分な「プラスアルファ」ではない。しかし、山中委員長は、すっかりプラスアルファ概念に乗り、片山長官が「暦年」も「30年」開始も否定する「暦年で40年目というと、まだ全然そんなタイミングに来ていない炉」「40年目に相当する年数での申請」という発言もやり過ごした。
ここから一気に片山長官が元々描いていたのであろうシナリオを展開する。
経産省が描いたシナリオ通り
そのシナリオとは、まさに原子力業界のリクエストの実現であり、わかりにくい言葉で巧みに委員たちを誘導する「霞ヶ関文学」が展開する。
片山長官は、別の話を挟んで、再度、このやりとりに念押しをする。
「規制の虜」か二枚舌か
委員会後の会見でも12月6日の国会審議でも、山中原子力規制委員長は「暦年」でやりますと言い続けることになる。
しかし、他方で、「暦年で評価をしていくということになると、本当に40年のタイミングでいいのかどうか」と、「暦年」に骨抜きを狙う元経産省官僚に呼応して、自らも矛盾する発言を述べたのは、二枚舌なのかなんなのか不明だが、原子力規制委員たちは、既に「規制の虜」(*)に逆戻りか、少なくとも「規制庁の虜」になっていると感じる。
(*)「規制の虜」とは、ノーベル受賞経済学者ジョージ・スティグラーが、「国(規制当局)が国民の利益を守るために行う規制が、逆に企業など規制される側のものに転換されてしまう現象」(出典:「原発事故から学ばない日本…『規制の虜』を許す社会構造とマインドセット」)だとされ、国会事故調査会委員長を務めた黒川清氏が、報告書発表から現在に至るまで、繰り返し福島第一原発事故原因の背景として警告を発し続けている。
タイトル写真【日向ぼっこ】
体温調節が難しくなったのか、アキは、寒空の散歩で舌が紫色になり、気を失った。以来、朝晩の散歩は控え、日が照る日中に短時間、出すことにした。
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