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老朽原発の審査はズサン:延長のリアル

2022年11月7日に開かれた集会で、老朽原発を原則40年以上使うことを認可(*1)する原子力規制委員会の現在の審査は、とてもズサンだ!ということに気付かされた。

集会は、岸田首相が指示した原発の運転期間延長の撤回を求め、国会議員の求めに応じて原子力規制庁も出席して。参議院議員会館とオンラインで開かれた(主催:国際環境NGO FoE Japan他

老朽原発の何が危険か?

驚愕したのは「老朽原発40年廃炉訴訟市民の会」の柴山恭子さんの話。柴山さん達は、原子力規制委員会が行った3つの原発の運転期間の延長認可等(*2)の取り消しを求める裁判で、原告とサポータ(*3)が力を合わせて戦っている。

3つの原発とは、関西電力の高浜原発1・2号炉(それぞれ1974年、1975年から稼働)と美浜原発3号炉(1976年から稼働)。これらは原子力規制委員会が許認可していなければ、原則40年ルールで、2014年、2015年、2016年に廃炉になっていた老朽原発だ。

老朽原発が危険視される現象に、原発の心臓部である「原子炉」が放射能「中性子」に照射されて脆くなる「中性子照射脆化」がある。そのために「監視試験片」を入れておいて取り出して試験し、将来的な安全性を予測することになっている。

原子炉の脆さを示す原データを規制委は見ていない

原告側(*4)がその予測結果を見ると、不自然な点があったため、予測結果の元となった試験データ(原データ)を見たいと、裁判所を通じて求めると、被告である原子力規制委員会は、関西電力から原データを提供されていないことがわかった。

つまり、原子力規制委員会は、老朽原発の運転期間を延長して良いかどうかを認可した時に、試験データそのものは見ていない。関西電力が記載した結果を見ただけだった。不自然な結果について元データを確認することなく、運転期間の延長にゴーサインを出してしまっていたのだ。

原データを規制委が見ない3つの理由

それだけで十分に驚きだ。だが、なぜ、原子力規制委員会が原データを確認しなかったのかという理由にはもっと驚いた。柴山さんは集会で、その理由を、次の1枚で報告した。

出典:老朽原発40年廃炉訴訟市民の会
「関電の手抜き試験 裁判所で明らかになった原子力規制委員会のずさんすぎる審査」13ページ

上記3つの理由を平たく言えば、「原データを確認しろと法律に書いていない」、「審査する人材が限られている」、「事業者の信頼性が担保されている」からということ。

次回、詳しく書く予定だが、原子力規制委員長は、現在の延長認可の審査がそんなものだと知らないことも11月9日の定例会見でわかった。規制庁幹部も知らない。後者は「(原子力規制委員会・規制庁は裁判所で)そんな表現はしないと思う」と首を傾げた。

そこで、柴山さんに連絡して、「準備書面そのものをいただけませんか」とお願いした。気になる点があれば、元の資料を辿って確認するのは当然だ。「準備書面」とは訴訟の時に被告と原告が言い分を主張し合う時に裁判所に提出する書面のことをいう。裁判用語だ。

規制委「義務を負っていないから」

柴山さんからは、ここに載せていますよ、とすぐに返事をもらえたので読んでみた。プレゼン資料の通り、2019年10月9日付で、原子力規制委員会が裁判所に提出した準備書面の「目次」でズバリこう書いてある。

出典:高浜原子力発電所1号機及び2号機運転期間延長認可処分等取消請求事件
原子力規制委員会の準備書面(2019年10月9日)

「原子力規制委員会は、事業者の各種許可申請を審査するに際し、法令上、その申請内容を導く試験データ等の技術的根拠全てについて、逐一確認する義務を負っていない」読み進めると、そのことをさらに詳しく書いた長い一文があった。

出典:高浜原子力発電所1号機及び2号機運転期間延長認可処分等取消請求事件
原子力規制委員会の準備書面(2019年10月9日)4ページ

規制委「信頼性が担保されているから」

上記を要約すると、原子力規制委員会の反論や主張はこういうことだ。

「原告は『原子力規制委員会は関西電力から試験データを受け取っておらず、関西電力が延長申請書に記載した最終結果を鵜呑みにしていると』いう。しかし、原子力規制委員会は、関西電力が収集した試験データの全てを逐一確認する法的義務を負っていない。原子力規制委員会がそんな義務を負わなくても、事業者(関西電力)には品質保証する義務を課しているから、申請内容も信頼性が担保されている」

縮めて意訳すれば、「鵜呑みではない。原子力規制委員会が試験データを受け取っていないのは、関西電力を信じているからだ」。さらに次のように書いてある。

出典:高浜原子力発電所1号機及び2号機運転期間延長認可処分等取消請求事件原子力規制委員会の準備書面(2019年10月9日)6ページ

規制委「審査する人が限られているから」

まさに「人的物的資源が限られているので、申請ごとに膨大な試験データを確認するのは現実的とはいえず、審査の充実性を阻害する」ということだ。

人材が限られているから原データは見ないという主張だけでも十分にショッキング。さらに「審査の充実性を阻害する」というのは、全く理解ができない。

柴山さんの1枚のプレゼン資料は、3つの理由をとてもわかりやすく整理したものだと改めて感服した。裁判でよくぞ、それを明らかにしてくれた、と感謝の気持ちが湧いてくる。

審査の放棄ではないか

原子炉が中性子で脆くなっていないかどうかは、老朽原発を使い続けることができるかどうかの最も重要な判断材料の一つだ。それなのに、3つの屁理屈をつけて、不自然な結果の元データを辿りもせず、「審査の充実性を阻害する」という。審査の放棄ではないか。

「原子力規制委員会は老朽原発を審査する能力がありません」と自白しているようなもの。実は柴山さんからの報告には驚くことがさらにまだあった。驚きと呆れ返る気持ちに襲われて、気持ちを落ちつけて書くまでに、1週間もかかってしまった(物書きとして修行が足りない)。

タイトル写真【至福の朝寝】

朝の散歩。浜まで辿り着いた途端に動かなくなる時が最近よくある。仕方なく抱っこをすると、アキは、至福の面持ちで朝寝を始める。

11月14日に以下、訂正しました!

*1 運転期間延長は「許可」ではなく「認可」に訂正。
*2 運転期間延長認可だけではなく「設置変更許可、工事計画認可、保安規定変更認可」も対象としているので「等」を加筆訂正。
*3「原告として」を「原告とサポーターで力を合わせて」に訂正。
*4 「原告である「老朽原発40年廃炉訴訟市民の会」」を専門家・弁護団を含めて「原告側」に訂正。

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