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#女たち Vol.19

ユーシー(汐)の場合

同僚のシャオランとルーシーが結婚をすることになった。
同じ男性と。

キッチンで、コーヒーをいれていた柊子が、そんな偶然があるんだねと驚いていた。

柊子は、私と郊外のHDB団地でルームシェアをしている日本人で、中華系シンガポール人とのハーフだ。
アジア同士のハーフは見た目ではそれだと分かりづらい。その上、彼女はシンガポール訛りの英語を完璧に話すので、ハーフだと言われない限りは日本人だと分からない。


「一夫多妻を受け入れるマレーシアでは
珍しい話ではないかもしれないよね」

と柊子は言ったが、私はそこを聞いてほしい訳じゃなかった。
ここはマレーシアではなく、シンガポールなのだ。
それに、ただでさえ私が務めるオフィスは人手不足なのに、同時に同僚が2人もいなくなったら、私に仕事の皺寄せが来るに決まっている。

せめて同時に辞めずに、例えば、第一妻から先に辞めてもらって、間隔を空けてから、第二妻が辞めるとか、工夫してくれれば私も何とか仕事の対応が出来るのに。
なにも一緒に揃って結婚なんてしなくてもいいじゃない。

私の言葉に柊子は笑った。


結婚相手の彼はそんなにいい男なのか?
聞くところによると、彼の家は代々医者の家系で、裕福なんだとか。
妻を2人養うには充分な収入はありそうだが、
一夫多妻制は4人も妻を持つ事ができる。
一度に2人の妻を迎え入れたのだから、きっとこれからまた妻が増えるだろう。
私には無理だ。そんな結婚生活は。
私ならやはり夫となる人には私だけを愛してほしい。

「仕事が大変になるのが嫌なの?
それとも、一夫多妻が嫌なの?」

と柊子に聞かれて、

「どっちもよ」

と言ったら、

柊子はまた笑った。

「ユーシーの気持ちは分かるよ」

と柊子が共感してくれたことで少しは気持ちが軽くなったが、自分だけが割に合わない事を背負わされてるような、損をしているような気持ちは消えなかった。

明日、シャウランとルーシーに職場で会ったら上手く笑顔で祝福出来るだろうか。

愚痴は自分の持っている良い運が消えていくと、昔、母が言っていた。
祝福には祝福をとも。

こんな時にこのジンクスを思い出すとは。

ジンクスを素直に信じる純粋な私に、
幸せが訪れない訳がない。

だから私にもきっと祝福される出来事が起こるはずだ。

「すごい発想の転換!」

柊子と大笑いした。

私のこのモヤモヤをそのジンクスが一瞬で消し去ってくれた。
とはいえないが。

気づくと、いつ淹れてくれたのか、私のカモミールティーがテーブルに置かれていた。
彼女のそういう気遣いは、日本人から受け継いだものかもしれないと思った。

#多様性を考える


柊子の場合編


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