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第四章 チームの風土づくりに大切な、「叱る」と「褒める」の使い分け

前章では「会議での発信の大切さ」を述べた上で、なぜ皆の前で(賞賛)や(鼓舞)をする必要があるのか疑問を投げかけたところです。

それは一言で表すと、上司として「叱る」と「褒める」という行為を、その効果に応じて明確に使い分けられているのかを振り返るところから始まります。「叱る」と「褒める」という行為の効果を理解いただく上で、以下の場面を想像してください。

ケース1
役職者「この新規事業に携われる機会に手を挙げる意欲のある人はいるか?」
部下A「・・・・・・」
部下B「挑戦したいですけど、今は手一杯です」
部下C「(我関せずという態度で違う方角を見ている)」
部下D「自信がありません」
役職者「そんな調子でどうする。向上心を持て。せっかくの機会だぞ。よく考えてみろ」

さて、ケース1のような状況の場合、最後に役職者は部下たちを叱っていますね。この後事業部に作り上げられる風土は想像つきますでしょうか。

もしかしたらAからDさんの中から、重苦しい空気に耐えられなくて手を挙げる人も出てくるかもしれません。

でも、そうして手を挙げた部下は、役職者が不在の時間には、その仕事に携わりながら周囲に愚痴をこぼすようになるでしょう。

もしくは、誰も手を挙げずに平行線のまま気まずい時間を過ごすことになり、しびれを切らした役職者が「もういい」と言って、自分がその仕事を引き取るなど、様々な決着が想像できます。共通しているのは「望んで手を挙げる空気にはならない」ということです。

これは「叱る」という行為の効果を理解していない役職者が取る言動として典型的な例になります。それでは次のケースをご覧ください。

ケース2
部下A「(担当案件を説明中)」
部下B「(隣の部下Cとヒソヒソと確認し、Aの説明を妨げる)
役職者「何か質問があるなら、案件者に直接してくれ。横と話すと聞き逃すぞ」
部下B「失礼しました。それでは・・・」

いかがでしたでしょうか。ケース2では役職者の発信が、同じ「叱る」という行為であったにもかかわらず、部下の納得感は異なりそうですね。

このことから「叱る」という行為は、「打ち消したい言動」に対して効果を発揮することが分かります。会議中には案件者が話しているにもかかわらず、横とこそこそ話しながら聞く人は、ときに会議の妨げになります。その聞く態度は事業部の風土として打ち消したい、そこで役職者は、「叱る」という行為を選択しました。

それに対してケース1はいかがでしょうか。「新規事業の機会に手を挙げる積極性」は「打ち消したい言動」ではありません。この場合の役職者はどう対応していたら良かったでしょうか。次の例をご覧ください。

ケース3
役職者「今度新しいソフトを導入する上で、それぞれの事業部から機能を学ぶ代表者を選ぶことになった。希望者はいるか」
部下A「はい、では私がいってきます」
部下B「(Aさんはパソコン強いからな・・・)」
部下C「(先に手を挙げられてしまった・・・)」
役職者「真っ先に手を挙げられるのは素晴らしい姿勢だね。守りに入りたい年次に新しい知識を得ようとする積極性は素晴らしいね」
部下D「(次は自分も何かに挑戦しよう)」

ケース3では、お気づきの通り役職者は「褒める」という選択を取りました。極端な例ですが、ケース3のような発信が日常的に多くなされている事業部では、「挑戦することに対する前向きな風土」が作られていきます。

このことから「褒める」という行為は、「増やしたい言動」に効果を発揮することが理解いただけたと思います。ケース一のような重要な案件で選択を迫るのではなく、普段からケース3のような場面で風土を作っておく、そうすると、いざケース一の時に部下が手を挙げてくれるチームになることが可能です。

これらのまとめとして、私が実践している「褒める」と「叱る」の使い分けの例をご紹介します。私は時折外部企業の方に研修の依頼をいただくことがあります。100名ほどの初対面の方々の前に立ち、講演を行う場面で簡単な自己紹介をしている最中に、自分の話を笑顔で頷いて聴いてくれる方が5名程度だった場合、皆さんだったらどうしますか。

「緊張しているので、頷いて聴いてくださると助かります」と発する方がいますが、この言葉は一見丁寧ですが、聴く態度を叱っていることになります。この言葉を聞いて頷く人が増えるのは、きっとわずかだと思います。

もうお分かりですね。この場面では頷くという行為は増やしたい行動なので、既に頷いてくださる方々が5名だったとしても、全員の前で大げさに褒めていきます。「何者か分からない自分の自己紹介を、笑顔で頷いてくださる方がたくさんいらっしゃいますね。なんて素晴らしい組織なのでしょう」と。すると実質5名ほどだったのが、みるみるうちに前向きな空気が拡散し、頷いてくださる方が増えていきます。

事業部の風土は、上司が「褒める」と「叱る」という行為の効果を明確に区別するだけで、いかようにも変えていけます。

『居心地のいい場所は、まわりの人があなたに何をしてくれるかによってじゃなくて、あなたがまわりの人のために何をするかによって決まるの。家も、学校も、職場も、全部。』(『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』喜多川泰氏)

まずは、自分が事業部にどんな働きがけを行っていけば良いのか、振り返るところから始めて、風土に影響を与えるような発信を心掛けていきましょう。

次の章では、リーダーが作っていきたい「事業部の風土」について触れていきます。

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リーダ―育成・事業部再生コンサルタント

本間 正道
twitterID:@kodotabefine

Email:playbook.consultant@gmail.com

著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』


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