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第一章 期待する役割に定義を持っているか
まえがき
「人をまとめる役割を担うことに、興味を持たない若手社員が多い」そんな悩みを抱える企業が増えてきました。
・リーダーを任せたいが頼れる人材がいない
・管理職への昇格を「現場が楽しいから」と言われ断られた
・「責任のわりに報酬があわない」と、昇格に関心を持たない
・次世代リーダーの育て方がわからず、部下に目標を持たせられない
・年次としてはリーダーを任せたいが、ふさわしい人物なのか見極めが難しい
このような悩みを解決する上で、何から手をつけたら良いか想像つかないですよね。私もそうでした。
そのため、部下にどんな取り組みをしたら昇進への「内発的動機づけ」が図れるのか理解し、実践することを本書の目的にしています。
本書を読み終えたら、あなたの「何で若手は向上心を持たないのだ」という不満はなくなります。
私はこれまで文化も土地柄も年齢層も異なる6つの事業部でマネジメントをする中で、多くの役職者を輩出してきました。
しかし、私自身が若手の頃は、昇進に興味がありませんでした。「権限を持つ魅力より、責任の重さに気後れする気質」を持っていた私が、どんな仕組みと信念でリーダーを輩出してきたか、ご説明します。
第一章 期待する役割に定義を持っているか
初めに、役職者に興味を持てない若手に「役職者とは何をする人」なのか、あなたが一言で語れるかどうかを振り返ってみてください。
前提として、「聞かれる度に違う内容を回答する価値観は浸透しない」という原則があります。どういうことでしょうか。
私が専門学校現場でクラスマネジメントをしていた頃に、生徒たちに掃除の大切さを説く場面がありました。
「掃除は、誰もが手を抜きたがる簡単なことに対して、手を抜かない自分を作り上げるために必要だ」
「掃除は、次に教室を使う人たちが気持ちよく過ごすために取り組むのだ」
「掃除は、社会に出たときに誰もが最初にやること。まずは掃除で信頼を得よう」
どの言葉も「掃除は大切」と伝えたいのですが、毎回伝える内容が異なるため、毎日の掃除を、担任の私が求めるレベルで徹底させることができませんでした。そこで、伝え方を一つに絞りました。
「掃除とは、居場所を作るためのもの」
宮崎駿監督のジブリ映画には、主人公が必ず掃除をする場面が出てきます。居候から始まる主人公が、まずは掃除に励むことで信頼を得て、自分の居場所を確立する描写を生徒たちに伝えました。
どんなコミュニティでも初めは新参者となるため、掃除に励むことで居場所を作ることができると伝えると、社会人の卵である生徒の共感を得て、掃除に手を抜かないクラスを作ることができました。掃除の大切さを説く伝え方に、一貫性を持たせたからです。
では役職者とは何をする人でしょうか。もし、部下から不意に「役職者って結局どんな人がなれて、どんなことをするのですか」と聞かれた時に、毎回同じ回答ができる程、確固たる定義を持っていますでしょうか。私は持っていませんでした。
役職者を仮にリーダーと言い換えた場合、リーダー論は世にたくさん出回っています。リーダーは表に出ず、メンバーを支える側に注力するサーバントリーダーシップや、リーダー自身が背中で見せて、見本を示して引っ張っていく率先垂範型。
このように複数の理論が存在するため、多くの人はリーダーが何する人か、明確に定義を持っていません。しかし私は、生徒からも部下からも何度も問われる中で、このまま毎回即興で返答していて良いのだろうかと自問し、今は次のような回答をしています。
「リーダーとはリーダーシップを発揮して、成果を出す人」
リーダーシップも曖昧なので、自分なりに定義づけます。リーダーシップ=対人影響力。
つまり、対人影響力を発揮して、成果を出す人がリーダーであると回答します。なぜ、役職者をリーダーと言い換える必要があるのでしょうか。
リーダーシップを発揮する人は、役職者に限らないからです。この定義によって、役職者になってからリーダーシップを発揮するのではなく、「リーダーシップを発揮して、成果を出す人を役職者にしていく」という解を得ることができました。
それでは対人影響力を発揮するには、何が必要でしょうか。それは人間力を磨くことです。私が新卒で専門学校現場に配属されたのはとても幸運なことでした。
社会人の卵を育成する専門学校では、当然私が社会人として見本にならなければなりません。そして、生徒は私との利害関係はありません。そのため、担任の私に言行が一致していない言動があると不信感を抱く上に、露骨に態度に表します。
また、一つ一つの学校生活のルールに、なぜそのルールが存在するのか、私に信念がないとルーズな面に生徒が似ていきます。人間力が低いうちは、担任という役割を担いながらもクラスのリーダーにはなれていませんでした。このことから、役職に就く前から人間力を磨いていくことが大切であることが分かります。
人間力を磨くという表現は、部下に伝える上で具体性に乏しいので翻訳します。人間力を磨くとは、人としての器を広げることです。
人をまとめる役割を担うと、様々な価値観を持つ部下に出会います。また、上位方針を会議で発信した時に、納得がいかないという表情を浮かべる部下も出てきます。自分の価値観と異なる意見を持つ部下たちに、対人影響力を発揮して成果を出すために、人としての器を広げていきます。つまり、人としての器を広げるとは、「人との違いを受け入れられる器」を広げることを指します。
これまで述べた内容を反対にしていくと、リーダー育成のヒントが見えてきます。人との違いを受け入れられる器を広げる機会を与え、人間力を磨き、対人影響力を発揮できるように導いていくことで、リーダーを育てていきます。大切なことなので、箇条書きとしてまとめておきます。
・リーダー=リーダーシップを発揮する人
・リーダーシップ=対人影響力
・対人影響力=人間力を磨く
・人間力を磨く=人としての器を広げる
・人としての器を広げる=人との違いを受け入れられる器を広げる
これらの価値観を何度も発信していくと、メンバー全員が考えるリーダーのイメージが事業部内で統一されて、何に注力していく必要があるのか、どんな人物が役職に就くのか共通認識を持たせることが可能になります。
まずは、あなたの会社にとって、または事業部にとって「役職者とは何をする人か」定義づけることから始めましょう。そして、その定義を何度も発信していくことで、共通認識を持たせ、価値観を浸透していきます。
次の章では、「人との違いを受け入れられる器を広げる機会」の与え方について触れていきます。
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リーダ―育成・事業部再生コンサルタント
本間 正道
twitterID:@masamichihon
Email:playbook.consultant@gmail.com
著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』
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