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心に届くまであきらめない

“双方向に交流できなくてもあきらめない”

心を通わせるコミュニケーションの基本は双方向。文字より電話。電話より対面。よく言われることだと思います。

専門学校現場においても、「こういうクラスにしたい」という担任の熱い想いを、クラスにLineやメールで一方的に伝えても、発信者の熱量ほどは伝わりません。

それよりも、ホームルームの時間に感情を乗せて、表情や声色からも想いが伝わるように発信した方が多くの生徒の心を動かします。

しかし、まれに双方向のコミュニケーションが取れなくなる生徒が現れます。

次のような生徒です。

①突然学校に来なくなり、携帯電話に電話してもつながらない

②「対面」で面談していても、話しかけても、うつむいたままで応答しない

このような状況に陥る生徒は、原因が一つではなく、生徒自身も要因を特定できないケースがあります。

ケースⅠ

高校まで毎日学校に通う習慣がなく、良い意味で力の抜きどころを見つけていたのに、将来の職業に繋がる専門学校の授業は手を抜けないことから、毎日学校に通うことに疲れてしまった。

ケースⅡ

同じ初心者として入学したのに、実技系の授業では、同級生との差がどんどん開いて自分に向いていないと思った。

ケースⅢ

クラス替えがあった際に、前のクラスの雰囲気に比べて、新しいクラスに溶け込んでいくことに自信が持てない。

ケースⅣ

保護者が奨学金を使い込んでしまい、そもそも家庭が荒れていて、勉学に集中できる精神状態ではない。

標題の「心に届かなくてもあきらめない」は、これらの生徒に対して取り組んできた結果から導き出した結論です。

番号別に事例としてご紹介いたします。

①突然学校に来なくなり、携帯電話に電話してもつながらない

この状況はケースⅠ~ケースⅣの状況に置かれた生徒全てが陥る兆候です。

その中でもAさんは実家から離れて一人暮らし。何の前触れもなく、音信普通になりました。

保護者の方は、進学も退学も本人が好きにすれば良いと思っている放任主義。結果的に、Aさんは心の波を一人で乗り越えなくてはならない状況でした。

当時担任だった僕は、毎朝メールと電話。当然保護者にも連絡。しかし、保護者も電話に出なくなり、本人からの返信もありません。電話は3日に1回に減らして、今度は手紙を郵送しました。

通常であれば、除籍を検討される可能性が高い生徒でしたが、あきらめたくありませんでした。

これだけメールや手紙を送っていると、本人の心情を想定した言葉がけも尽きていきます。少しの間不登校になったとしても、再び登校できたらどんなに経験談として素晴らしいかという意味づけも、なしのつぶてです。

もはや意味づけも動機づけも枯渇した自分は、短文だけど連絡はし続けました。

「元気か」

「まだ取り返せるよ」

「不安だよな」

当然、返信はありません。Aさんの友人にLineしてもらっても未読。生徒の自宅に訪問しても留守。だから、留守でも大丈夫なように予め手紙を作成した上で訪問し、返事が来ない手紙を投函して学校に戻ります。そんな日々が続きました。

でも音信不通を良いことに、見捨てて切り捨ててしまうのは、本当に正解なのか釈然としません。せめて、学費返還の目安である半期いっぱいまでは向き合うと決心。

「自分はあきらめてないからな」

「友達の〇〇が会いたいって言ってるよ」

そうしたある日、

「先生、返信しておらずごめんなさい」

とAさんから返信が来ました。その返信を見たときに、生きていたことへの安堵感と喜びと、このチャンスを逃すわけにはいかない、という重圧が混ざり合った複雑な感情で、全身の毛穴から汗が吹き出ました。

自分の返信内容次第では、また再度登校できるかもしれない、そう考えると希望と不安に挟まれました。

久しぶりに登校するのは勇気がいるだろうから、まずは自分との面談にだけ学校においでと伝えて、結果的には、その生徒は学校に来られるようになりました。

学校に来られなくなった原因は自分でも分からないというAさん。案外、不登校になるきっかけってそんなものかもしれません。

でも一つだけ言えることは、たとえ一方的でも連絡を絶っていたら、返信は無かったということです。

“心に届かせるのは自分じゃなくても良い”

②「対面」で面談していても、話しかけても、うつむいたままで応答しない

違う学科から転科してきたBさんは、以前の学科の雰囲気と全く異なるクラスの雰囲気に面喰らってしまい、誰とも交流していませんでした。

Bさんが以前いた学科はスポーツトレーナー科。転科してきた学科はスポーツインストラクター科。

トレーナーとインストラクターの違いは分かりづらいかもしれませんが、ざっくり線引きすると、トレーナーは知識と技術で選手を支える人。つまり「人の為に」という気質を持っています。

それに対してインストラクターは技術で見本を示せる人。エアロビクスインストラクターが、エアロビクスができなかったら誰も信用しないですよね。そのため、インストラクターは「自分を魅せる」必要があります。

この気質の違いだけでもだいぶクラスの雰囲気が異なるのが想像つきますでしょうか。

いつまでも暗い表情を浮かべるBさんを懸念して、面談することにしました。

入室して椅子に座るなり、うつむいたままこちらに視線を向けてくれません。

質問してもいっこうに口を開いてくれないBさんに、こんな時にはどんな話が心に届くのか、手探りをしながら自己開示をしていきました。

・気が合わない友人と過ごすことになった過去

・学校がつまらなくなっても、踏ん張った経験

・苦しいことでも続けていたら楽しくなった今の体験

それらを話しても一切反応はしないけど、面談部屋から出る様子のないBさんに、「前期に教わっていた先生で信頼できる人はいるの?」と聞いたら、初めて「スポーツ心理学のC先生」とボソっと答えが返ってきました。

ここが突破口だと光を見出し、転科したとはいえ、「C先生にBさんが時折学校生活について相談に行けるように頼んでみようか?」と尋ねると、初めてうなずいてくれました。

この一回のうなずきを得るまで、途方もない時間を要しましたが、途中で適当に切り上げて、また後日と言わずにいられてよかったと思える瞬間でした。

C先生に早速了承を得て、相談できる体制を整えると、Bさんは次第に明るさを取り戻し、クラスの中にも仲の良い友人を作ることができました。

結果として、そのクラスの卒業式の時、一番自分を慕ってくれていたのはBさんです。あの時、一言も返さないBさんに対して、声掛けをあきらめずにし続けて良かったです。

今回2人の生徒の事例を出しましたが、社会人としてチームマネジメントを行う中で、これらの生徒との向き合い方がとても生きています。

つまり、こちらの想いに全く反応がない、または応えようとしない人に対しても向き合い続けることです。ツールや手段は変えたとしても、築きたい関係性のゴールは諦めません。

19、二十歳の生徒も変われるのだから、社会人も変われる、そんな気持ちを持って接することで、いまひとつ伝わったか伝わらなかったのか分かりづらい対象も、変わってくれると信じて手を変え、品を変え発信し続けることができます。

心に届くまで、あきらめない。

続きはまた違う記事で。最後までお読みくださり感謝。

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リーダ―育成・事業再生コンサルタント

本間 正道
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