見出し画像

「100分de名著」で学ぶニーチェ「ツァラトゥストラ」3回目その4

※NHKオンデマンド、U-NEXTなどの動画サイトで、ご覧いただけるNHK番組「100分de名著」を元に、学んだり、感じたりしたポイントをお伝えしています。
出演者:
司会 --- 堀尾正明さん
アシスタント --- 瀧口友理奈さん
解説者 --- 西 研さん

1.深夜の鐘の歌

ツァラトゥストラには、永遠回帰の思想を形にした、あるシーンがあります。(第三部「第二の舞踏の歌」より)

それは、深夜に時計台の鐘が、12回語りかけるように鳴り響くシーンです。

深夜の鐘の歌

一つ!おお人間よ!しかと聞け!

二つ!深い真夜中は何を語るか?

三つ!私は眠った わたしは眠った

四つ!深い夢から いま目がさめた

五つ!世界は深い

六つ!昼が考えたよりも深い

七つ!世界の悲しみは深い

八つ!
よろこび
それは心の底からの苦悩よりも一層深い

九つ!
苦しみは言う「終わってくれ!」と

十!
しかしすべてのよろこびは永遠を欲する

十一!
深い 深い永遠を欲する!

十二!

2.この歌に込められた教え

この詩は、歌のようで感動的ではあるのですが、意味が分かりにくいところがあります。

この詩の意味は、どう捉えるべきなのでしょうか?
その答えに、解説者の方が説明しています。

この歌で重要な部分は、7番目以降です。

悲しみは深い、けれども、よろこびは、それよりももっともっと深い、苦しみは辛く耐え難いもので、早く去っていってほしいし、こんな人生辞めにしたい、けれども、たった一度でも、何か喜ばしいことがあったのなら、他の嫌なことをすべて引き連れて、何度もその人生を生きるに値する

ニーチェはこのように考えたのではないかと、解説者の方は、説明しています。

永遠回帰の思想には、あなたにとって一番の喜びとは何だったのかと問い掛ける部分があります。
ルサンチマンの良くないところは、喜びを忘れさせてしまうところです。
永遠回帰の思想には、あなたにも本当にいいことあったでしょう?本当に素晴らしいことがあったんじゃない?だったらブーたれてないで、今のこの世界から喜びを汲み取って生きようではありませんか?

ニーチェはこの歌を通して、私たちに語り掛けてくれているように思うと述べています。

ここで、司会者から、ニーチェがこの思想を思いついたことには、ニーチェにも、永遠回帰のリングのダイヤの部分に相当するような、輝く瞬間があったのではないか、というコメントが上がります。

これを受け、解説者は、ニーチェの輝く瞬間に関わっていると思しき女性として、ルー・ザロメを紹介しています。

3.ルー・ザロメとの出会い

作家ルー・ザロメは、ロシアの貴族階級に生まれた感受性の鋭い、優れた知性に恵まれた女性でした。
ニーチェとルーは友人の紹介によって知り合います。
この時、ニーチェは38歳、ルーは21歳でした。
ニーチェは美しく聡明なルーに恋し、2度プロポーズします。
ルーはいずれも断りましたが、ニーチェに思いがないことをはっきりとは示しません。
その代わりに思いもよらない提案をしました。
同じくルーに思いを寄せていた友人と一緒に共同生活をしようと言うのです。
彼らは自分たちのことを聖三位一体と名付けました。
やがて3人の関係はこじれ、ルーに嫉妬したニーチェの妹まで巻き込んで、自体は一層複雑になります。
悩んだニーチェは自殺まで考えるようになりました。
ニーチェとルーは結局結ばれることはありませんでした。
しかし、ルーと過ごした時間の中で、生涯忘れられない出来事がありました。
それはイタリアを旅行中、二人だけで散歩を共にしたことです。
後に、このときのことを、ニーチェは、ルーへの手紙の中で、「私の生涯で、最も恍惚とした夢を持った時間だった」と書いています。
ルーとの出会いによって、生涯で最も大きな悦楽と最も大きな絶望を味わったニーチェですが、この後爆発的な勢いでツァラトゥストラを書くことになるのです。

4.失恋を乗り越えて

ここで、司会者は、ニーチェは最高の悦楽と最高の絶望を味わいながら、運命愛の思想に行き着くというのが、我々には理解しがたいところだと、感想を述べています。

これを受け、解説者は次のように解釈しています。

ニーチェはルーから恋敵と3人で共同生活をするという理不尽な提案を受け入れた後、別れを経験します。
普通、女性に振られたら、振った女性のことを悪く言ったり、恨み節になったり、人間不信に陥るところです。
しかし、ニーチェは、そこで、ルーを恨むのは意味がないことだと考え、ルーと共に過ごした大切な記憶を大事にこれから生きていこうと思ったのではないか、としています。

ニーチェはこの出来事がある1年ほど前に、永遠回帰の思想が降りてきたというメモを残しています。
しかし、永遠回帰の思想を本当に完成させたのは、この失恋を乗り越えた後です。
永遠回帰の思想は、ルーと過ごした、このひとときの喜びを愛して、何度も繰り返そうと欲するといった、ニーチェの失恋パワーが生み出したものだったのかもしれないと、解説者の方は述べています。

ルーとの失恋後、ニーチェはツァラトゥストラの第1部をたった10日で書き上げたそうで、文章も非常に磨かれたものになっています。

ニーチェが言いたかったのは、ルサンチマンやニヒリズムに負けてしまうと、生きることの喜びを汲み取れなくなる、そこを噛み切って、喜びを求めて生きよう、というメッセージを送っているように思う、と解説者の方はお話されています。

5. 出演者の感想

ここまでのお話のまとめとして、出演者の方から以下のような感想があがりました。

司会者の感想:
ニーチェが生きた当時、現世を否定して、あの世に喜びを求める声がある中で、ニーチェは自分の言葉を発言するのは勇気がいったと思うし、哲学というジャンルで見たとき、ニーチェ以前の、理性を論理で突き詰めていくという方法があったけれども、ニーチェが提唱した哲学は、人間的であり、喜怒哀楽を感じさせるものです。

アシスタントの感想:
思想のきっかけが失恋であるという面が、身近に感じられるし、思想の教えも体験に基づいたものだから、自分の身において、納得できる言葉になっていると思います。

次回は、ニーチェの哲学を現代にどのように活かしていくべきか、ということついて、お話していきます。

6.ここまでの感想

ニーチェの哲学が、自分の人生の体験に基づき生まれたことを知り、ニーチェ自身やニーチェの哲学が身近に感じられました。

ルーとの恋愛は失敗してしまったかもしれないけど、ルーを恨まず、ルーと過ごした思い出を大事にしていこうとし、その考え方を哲学にまで高めていこうとした態度は立派なもので、人として尊い姿だと思いました。

神の存在が絶対視されていた当時、価値基準を自分の喜びに置いたニーチェの思想は斬新なものだったが故に、当時の人々には受け入れにくかったと思いますが、今では多くの人に受け入れられる思想になり、ニーチェの考え方に追いつくまでに相当長い時間がかかったと思いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?