スマホビジネスをめぐるゲームがメジャーアップデートされるぞ~ その①
スマホ新法、爆誕!
大規模モバイルOS事業者などを規制する新法「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(「スマホ新法」)が通常国会を通過し、6月19日に公布されました。
この法律は、スマホをめぐるビジネスのエコシステムのなかで強大なパワーを持つ大規模事業者を規律する法律で、事後規制型の独占禁止法に対して事前規制型のルールを定める新しい市場規制法です。
所管官庁は泣く子も黙る市場の番人、公正取引委員会。
この法律は、通常国会の後半戦ともいえる4月26日に閣議決定されるというかなり異例なパターンで国会に提出された閣法ですが、衆参院ともほぼ満場一致でスピード可決された、日本国民の総意ともいえるデジタル社会の新しいルールです。このルールは1年半以内に全面施行されることになっています。
他方で、この新法はAppleやGoogleなどのスマホの巨人を対象とする規制法なので、多くのビジネスの人たちは「自社のビジネスには関係ない法律だ」と考えているようです。
しかし、これはとんでもない間違いです。
この法律は、強い寡占のもとにあったモバイルエコシステムのなかで、「本来であれば生まれるはずであったビジネス」が抑圧されてきたとの認識のもと、そのビジネス領域を開放することを目的とする法律です。規制は寡占事業者に向けられていますが、寡占事業者を規制することが目的なのではなく、寡占により閉鎖されてきたビジネス領域を開放し、新たな事業者がそのマーケットに入ってきて、自由な競争を通じてどんどん良いサービスをエンドユーザに届けてほしいという願いを持った法律なのです。
僕はデジタル市場競争会議のWGメンバーとして、創設初期の2019年から日本のデジタル領域の自由競争を回復するための政策を支援してきました。スマホ新法はこの会議が2023年6月に公表した「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告」を受けて、その提言内容を法制化したものになります。
よくある誤解
よく誤解されるのですが、報告書の作成をめぐりWGで一貫して議論されたのは、GAFAをやっつけようということではまったくありません。GAFAは資本市場のなかで投資家の期待に応えるために利益を上げる使命を負ってますから、競争の枠組みを最大限活用することは当然です。競争の枠組みつまり「土俵」をつくっているのはルールですから、もしその枠組みのもとで全力で走るプレイヤーによって、別のルールのもとであれば生まれてきたかもしれない新たなサービスが生まれなくなっているとすれば、それはその市場のもとにいる日本の世帯の9割にものぼるスマホユーザーに苦痛と不便を強いていることになります。この世帯の9割に苦痛と不便をもたらしている状態を解消するために、改善すべきは「土俵」をつくっているルールだということになります。
スマホ新法プロジェクトは、このような背景のもとに始動され、私たちの代表である国会議員から満場一致で支持されて法制化されたことになります。
もちろんその背景には、EUのDigital Market Actであるとか米国FTCやさらには新法の動きであるとか、国際的な情勢があります。しかし私たちにとって重要なのは、日本のデジタル市場を真剣に議論して、日本のデジタル市場はこうあるべきという信念のもと、それを実現できるルールを日本に導入したという事実です。
ゲームルールのメジャーアップデート
ビジネスはゲームに似ています、というよりはゲームそのものです。法律はビジネスの「ワールド」を作り、事業者はゲーム開発元である国会議員と政府が設計してリリースするワールドのもとで、思い思いのゲーム内ゲーム(サービス)を開発して、お金を稼いだり人を楽しませたりします。
スマホ新法は、モバイルエコシステムをめぐる大規模ゲームの開発元である国による、ゲームルールのメジャーアップデートです。国会通過によりゲーム開発はほぼできあがりましたので、細かいゲームバランスの調整をこれから1年半かけて行い、来年末にはゲームをリリースするよという状態です。ここからは、新しいゲームのユーザ、つまり新しいルールのもとでビジネスチャンスを見つける事業者を獲得していくマーケティングのフェーズに入ってきます。
法律というゲームルールの奇妙な構造
政府はルールのエンジニアであり運営者です。今回ゲームの運営を担う公正取引委員会は、来年末のゲームリリースに向けて、新しい部署を設けてひたすらゲームバランスのチューンアップをしつつ、ゲームのルール違反者を監視したり、ユーザである事業者からの苦情を受け付ける仕組みを作ったり、大忙しです。運営からは新しいゲームについての色々なリリースも出てくるはずです。
ゲームの運営をする政府はとても優秀ですが、めちゃめちゃ残念なことがあります。それはマーケティング機能がないことです。せっかく面白い、良いゲームを作っても、そこにプレイヤーを呼び込むためのマーケティング機能が、政府にはないのです。
マーケティング機能がないゲームのパブリッシャなんて、なんとポンコツなゲーム会社なのかと思われるかもしれません。しかし、政府という仕組みは、マーケティングの機能は民間サイドでお願いしますというモデルを採用しています。もちろんマーケティング機能の外だしに対して業務委託料は支払われません。
民間ゲーム業界からすると、かなりへんてこなモデルなので、ルールのアップデートは、勢いマーケティングが十分に行われずにプレイヤーを呼び込みにくい構造にあります。
新しいゲームのマーケティング
政府の政策を支援する民間のメンバーは、政府ではできない、自ら製作に関与したゲームについてマーケティングまで一貫して引き受けて、作ったゲームを流行らせることまでしてはじめて、日本の役に立ったといえるといえると僕は考えています。今回のモバイル領域のゲームのメジャーアップデートは、スマホアプリや周辺デバイスの事業者はあまり気づいていませんが、スマホをめぐるビジネスゲームをかなり面白くする可能性に満ちています。
この連載は、スマホのエコシステム内でアプリや周辺デバイスを製作する事業者の皆さんに、新しいゲームの面白さを知ってもらい、なるべく早くゲームに参加する準備を開始してもらって、来年末のリリースからのスタートダッシュをかけてもらうための記事です。なので「どんな内容のルールなのか」ではなく、「このルールが導入されるとどんなビジネスができるようになるのか」のヒントになることを中心に書いていきたいと思います。
第2回記事はこちら