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30分で書くショートストーリーVol.4

30分で書くショートストーリー。
今回は『転がり落ちた』で始めることに。
あとで手直ししました。30分内で仕上げるのは難しいです。

【百度参り】
転がり落ちた。
と思ったら何かに頭をぶつけた。
後頭部に鈍い痛みを感じながら起き上がる。
目の前に落ちてきた階段がある。私はおしりについたほこりを払い、とっさに周りを見渡した。もう夕方だからだろうか、誰もいない。
お参りして帰ろうと思ったら足を踏み外したようだった。ヒールのある靴を履いてきたのがいけなかったんだ。ストッキングが破れ、膝から血が滲んでいる。
40過ぎて階段から落ちるなんて。
私は階段の下から社を仰ぎ見た。もう薄暗い。陽が暮れてから神社に行ってはいけないと聞いたことがある。どうしてだったか思い出せないけれど。
紙垂が青白く風に揺れているのが見える。
帰ろう。
足元に落ちているバッグを拾い、木々に囲まれた参道を足早に歩いた。
風の音だけが響く。足元だけを見て歩いた。今日で100日目だったのだ。
--あいつが不幸になりますように。
100日間、ひたすらにそれだけを願ってきた。私の婚約者を奪ったあの女。
息があがってきて顔を上げた。出口の鳥居が遠くに見える。
闇が両脇から迫っているような感覚になって、私は小走りになった。
あいつのせいで私の人生はめちゃくちゃになった。
滲んだ目を凝らす。ヒールの靴のせいで思うように足が動かない。
歩いても歩いても出口に近づけないような気がする。
走り出した。いくら走っても鳥居は近づいてこない。
どうなってるの。
叫びたくなるのを堪えて立ち止まった。木々がゆっくりと闇に飲み込まれていく。
自分の吐く息の音がだんだん大きくなる。その音に混じって小さな声が聞こえた。
--あいつは不幸になるよ。
--そうだよ。
同じ声のようだけれど、違うようにも聞こえる。あたりは闇だ。
じっと耳を澄ませた。
--よかったね。
--よかった。
身の毛がよだつのがわかった。
--でもさ。あなたはそれで幸せなの?
木々がざわめいた。私は闇に問いかける。
「その声は、わたし?」
それっきり何も聞こえなくなった。
すぐ目の前に鳥居が立ちはだかっていた。
(811字)

#ショートストーリー #小説 #階段 #神社 #怖い話


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