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タネは命のカプセル

土曜日、妹のタネカラプロジェクトに参加してきた。
午前中は風ではがれてしまった防草シートの補修と苗の植え替え、午後は森と生き物のプロフェッショナルである(妹の師匠でもある)青木先生と一緒にお話会をした。
青木先生はわたしが小学校のころ、自然学習に行ったときに出会った。
「名前は、青い木が繁る、と書いて、青木繁(あおきしげる)といいます」
と意味ありげに笑った先生の顔を今でも覚えている。小学生ながらすごい名前だなと思ったからである。
名前の一部にその人の職業を表す漢字が入っている人をときどき見かけるけれど、いつも感銘を受ける。生まれたときから決まっていたのだろうかと思ったりもする。とにかく、青木先生はわたしの知る中で一番古い、そういう人なのである。
防草シートの補修は割とすぐに終わり、次は飛ばないことを願って、苗の植え替えに移る。
栃、キハダ、ナナカマドの三種類を苗箱から小さなポットにばらしながら移していく。わたしはナナカマドをやったけれど、よくもまぁこんな密に芽が出たのねと感心するくらいにびっしり生え揃っていた。大人三人がかりで、ひたすら根っこをばらし、土を入れ、かぶせていく作業。一人でならやりきれないかもしれないなと思ったけれど、おしゃべりしながらするのは、初めて会った人とでもなかなか楽しい。
午後からは山帰来というカフェに移動してミーティング。
「種は命のカプセルです」
という先生の言葉が染み入る。栃の実(種でもある)は日本で一番大きな種だそうである。森や木の話、森を作る、手を入れていく、という壮大な話にもなったけれど、結局、どんなに大きな森でもはじまりは小さな種からなのだ。
「種って本当にすごい。本当に不思議」
先生は繰り返す。誰も答えを知らない種の神秘、それは生命の謎にも繋がっていく。
知らないことをたくさん教えてもらって、わたしの好奇心がうずく。
「こんな固い種でも、芽が出るんですよね」
先生の持ってきた石みたいな固い種を触りながら、ついバカなことを聞いてしまったけれど、先生は、出るんです、どういうことかはわからないけど、何かのきっかけがあるんやろうね、何かはわからないけど、と不思議そうに答えてくれた。
こういう命の不思議さに、わたしたちは心動かされたり、落胆したりもする。
もう1つ、大切なことを教えてもらった。最近読んだ、日高敏隆さんの本にも同じようなことが書いてあったのだけれど、森には人が必要だということだ。日高さんはそれを〈人里〉と呼んでいた。昆虫や動物に加えて、人もまた森に関わっていかなくてはならない。それが人の必要とする森である。
青木先生も同じことを言っていた。
昔から人は森と関わってきている。日高さんの言葉を借りれば、
〈人のロジック〉と〈自然のロジック〉がせめぎ合っているのが人里なのだと言う。
森は畑ではない。単なる緑ではなく、そこには自然のロジックが働いていることが大切なのだと思う。
考えることはたくさんある。何がどうなっていくのかわからないけれど、きっとまだまだ余白がある。
終わったところで雨がぽつぽつ降り始めてきた。植え替えた苗木たちは、きっと喜んでいるだろうな。
道のりは長くて終着点が見えなくても、並走したい。わたしなりの方法で森と関わっていけたらと思う。


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参考・日高敏隆『春のかぞえかた』

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