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空が鳴る

今日は空が鳴っているなと思う。雷ではなくて、晴れた日に鳴る音である。飛行機かなと思いながら、遠ざかっていくその音を聞く。
蝉の声がずいぶん減ったかわりに、窓ガラスにぶつかって落ちる蝉の羽音がときどき聞こえてくる。
今まで蝉の声にかき消されていた日常の音が少しずつ戻ってくる。
突然降りだす雨にももう慣れた。
ふうせんかずらの種が採れた。
どこかから飛んできたユリが咲いて枯れた。
この世界、まだ続いていくこの世界。
大袈裟かもしれないけれど、わたしはこれからどこで生きていくんだろうと考えたりする。
コップからあふれた水が行きつく場所を探している。
嬉しいことも悲しいことも吸い込んで、流れていく。
どこへ?
物理的な場所ではなく、心の在処へ。
それがどこなのか、今のわたしにはわからない。
少しずつ終わっていく夏の気配を感じながら、空を仰ぐ。
雲の形を確かめ、風の温度を感じて、朝顔の伸びすぎたツルをほどく。
ふっと力が抜けたような日。
自分の意志とは関係なく、世界は回っている。

#エッセイ #夏 #どこへ #蝉 #空

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