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地方を、思い切りカラフルに。「地方×副業受入」という世界

「ミンナニデクノボートヨバレ
 ホメラレモセズ 
 クニモサレズ
 サウイフモノニワタシハナリタイ」。

宮澤賢治「雨ニモマケズ」


宮澤賢治の美しくも苛烈なこの言葉を挙げていらした、敬愛するsaitobosatu(斉藤保明)さんからバトンを引き継いで今週のぷろぴのひろばに投稿しております村井真子です。斉藤さんの記事はこちらからどうぞ!

2023年12月6日号は、私がいま取り組んでいる「地方×副業受入」について書きたいと思います。

1)地方と都会の賃金格差

私が地方で働くことを意識したのは、自分が転職して都内の企業から実家の福島県に帰った時でした。求人票の給与額に2万円ほどずれがあったのです。
私がUターンした2003年当時、東京の大卒初任給は額面20万ほどでした。かたや、福島県では女性の大卒初任給は18万円。2万円の違いは、当時の私に痛烈に「都落ち」感を感じさせました。

この地方と都会の賃金差の原因は、空間経済学では「集積の経済」という理論で説明されています。

企業が多くひしめき合う都会だからだからこそ投入産出連関効果が生じやすくなり、能力の高い労働者が働きやすくなり、企業の生産性向上をもたらす。結果として賃金が上がる、という説明です。また、もともと能力のある労働者ほど大都市に集まりやすい、地方では経験できないような仕事や経験を大都市において積むことができる、といった労働者自身の能力の発揮の機会や学習体験があることで、さらにこの集積の経済はその利益を生む効果があるそうです(参照:第2回「なぜ大都市では賃金が高いのか」|独立行政法人経済産業研究所)。

さらに興味深いのは、上記に引用したレポートでは「ホワイトカラー労働者に関しては、地方へ移ったとしても都市で得られた経験によって高賃金を享受し続けていることが明らかにされている」研究があることです(カッコ内は前述論文より引用)。

これは、地方で働くことが「都落ち」に見えてしまった20代の私を照らす言葉でした。要するにやり方だ、といられたような気がしました。
私は地方に住むことを自分で選びました。
では、どうやったらこの空間経済の学びを自分の住む町に持ち込めるのか? 

私は社労士として、「地方」にもそれぞれ面白い仕事があることを知っています。
また、一般につまらないとされる仕事でも、その仕事に全力で打ち込んでおられる方の言葉には、生き生きとした充実感とやりがいがあることを、日々たくさんの方に教えていただいています。

仕事をつまらなくするのも、面白くするのも、経営者次第・労働者次第なのかもしれない。

だったら、このマインドを変えることができれば、地方だって仕事を面白くする人が増えて、集積効果が働くようになるのではないか?
この仮説の一つの解として、私はいま「地方×副業受入」ということに取り組んでいます。

2)仕事をすでに面白くできる人を地方に「越境」させる仕組み=副業受入


地方にも、面白い仕事がある。これは私の実感として思うところです。

特に製造業や一次産業は、その一種プリミティブな労働環境にストイックに順応しておられる方が多く、「ミリ単位でオーダーメード部品を削り出す技術」とか、「縁をフリルのように縮らせた品種改良薔薇」とか、乱暴に言うとめちゃくちゃエモい仕事をされる方がたくさんいるのです。
が、いかんせん、こうしたエモさやそれを実現する技術力はあまり知られていないところです。あるいは、その「エモい」部分だけが消費されている感もある。その結果、こうした商品の素晴らしさや技術力が賃金額に直結しない、という現実もあります。

また、同様に、「面白い仕事がない」というマインドも蔓延しているのが地方です。面白い仕事の例としてよく挙げられるのはマーケティング、IR、スタイリスト、コンサルタント……といったカタカナ仕事ですが、地方求人ではほとんどお見掛けしない単語です。そもそも上場企業自体の半数以上が東京に本社を構えており、その時点で「上場企業に特有の仕事」は地方に少なくなるわけです(参照:47都道府県別「上場会社の本社数」リスト最新版|会社四季報オンライン)。

しかし、本当にこういう仕事だけが「面白い」のだろうか。むしろ地方に住む私たちには、仕事を面白くする能力のほうが、むしろ足りていないのではないか。この相乗効果によって、地方の仕事は賃金上昇につながりにくく、面白さが感じにくいのではないだろうか、と私は考えたのです。

この問いを解決するヒントに、越境学習という言葉があります。
越境、つまり境を超えて、普段とは違う環境に身を置いてみる。その一つの方法が副業・兼業です。事実、副業・兼業をすることの人材側の効果として収入面での効果のほか、本業では得られないスキルの習得や人的資本の獲得など高い効果を感じていることが分かっています(参照:第二回 副業の実態・意識に関する定量調査|パーソル総合研究所)。https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/sidejob02.pdf

同調査では副業・兼業者のうち55.8%が地方での副業に関心があると回答しており、さらには年収1,500万円以上の高所得層で副業の実施率が高いことが分かっています。
こうした人材を地方に越境してきてもらえれば、地方の仕事が面白くなるのではないか?

3)副業を受け入れる「カラフルな企業」を増やす――移住者人材バンクの取り組み


このビジョンを胸に豊橋市で私が仲間とともに立ち上げた一般社団法人移住者人材バンクでは、現在移住者目線で移住者のリアルを伝えるメディア「スムミル」の運営を行うほか、副業・兼業者の受入企業に対し人材マッチングと受入伴走を行っています。発足当初から活動拠点としている豊橋市に全面的にバックアップをいただき、「移住・定住・関係人口創出にかかる連携協定」を締結しています。これは全員手弁当でかかわってくれているメンバーにとっても大きな力になっています。


副業・兼業者を受け入れる、ということは地方の中小企業にとっては重い腰です。未知のものは怖い。面倒くさい。今十分回ってるし……という企業もたくさんあります。こうした企業に副業者を受け入れてもらうのはなかなか難しいことです。

しかし、今年は地元の大手企業が当法人の働きかけで初の副業者受け入れを開始。受入企業と副業者、当社担当者が連携しあって、すこしずつ仕事を面白くする仕掛けを施しています。

余談ですが、個人的には地方中小企業が副業・兼業者を受け入れる最大のメリットは、後継者の志をきちんと守るということにあると思っています。
地方中小企業の後継者たちは概して高い教育を受けており、またその教育に見合う首都圏での仕事を経験している人材も少なくありません。その彼らが継ぐべき会社に戻って現場に入ると、それまでの環境や仕事の仕方ががらっとかわり、大きな壁にぶつかります。そのとき、独力で乗り越えることができればよいのですが、必ずしもそれがうまくいかない例を私はいくつも見てきました。
そうした後継者のビジョン、志を、現場の方にも共有できる形に加工するという作業は、実は社内人材ではしにくいのです。社内人材が後継者の思いを汲んで調整して実行する、ということは自社をメタ認知化するという技能が必要ですが、これが案外難しいのだろうと思います。
そういう場合に、副業・兼業人材はぴったりフィットします。後継者自身と同じ目線で、でも客観的な立場で、受入企業に寄り添いながらその志を実現可能な形にマイルストーンを置いていく。こういう作業は副業系コンサル人材だからこそ可能であるといえます。

こういう風に、すこしずつ仕事が面白くなって、いろんな人がいろんな働き方でその組織にかかわっていく。こういう働き方ができる企業のことを、組織変革のプロである沢渡あまねさんは「カラフルな企業」と呼んでいます。
沢渡さんとは現在、愛知県・静岡県に面白い仕事を作ろう!ということを掲げて活動している「あいしずHR」でご一緒しており、すでに地場の企業の皆さんを巻き込みながら越境・共創のムーブメントが生まれだしています。
「あいしずHR」については沢渡さんのこちらのブログをどうぞ。

こちらも鋭意メンバーを募集中です。一緒に面白い仕事をたくさん作っていきましょう!

4)地方を、思い切りカラフルに。地方×副業受入れで、私たちが「働く」ことの世界を変える

私は地方に生まれた自分が嫌でした。資源に恵まれた都会に対し、なんか損している気がしてなりませんでした。
でも、地方は地方のやり方で都会に勝つことができます。地方は何といっても地価が安い。自然が豊富。通勤も基本的に都会より短く、住みやすい環境は整っています。
カラフルな企業、カラフルな人材。これを揃えていければ、私たちはもはや初任給2万円の壁も壊せるのではないか。
都会よりむしろ地方のほうが、カラフルに働いていける世界が広がるのではないか。

そんな思いを胸に、私は今日も豊橋市で元気にさえずっています。
褒められもせず、
苦にもされず、
でもバタフライ・エフェクトはあると信じて。

最後までお読みくださりありがとうございました。
次回は豊富なビジネス経験と落ち着いた大人の風格でミドルシニアのキャリア形成に定評のある三田勝彦さんにバトンをお渡しします!どうぞお楽しみにお待ちください。


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