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はきだこ 第七回 あぐら女
あぐら女はかく語りき (破)
天使の曲についての悪魔による観測地点が此処だ。
ぬるこい曲で騒いだわけでも、ロックスターの真似事をしたわけでもない。
ただ自分の声で自分だけの音を鳴らす快感に彼女は痺れ、オーガズムに達していた。
在りし日のLPの溝から発される英雄たちの音でなく、確かに自分の思うように叩き出される騒音。
アンプを通じてスパンキングする鋼の波が、黒い箱の内側を撫で去る。
「誰にも届かなくていい。」
自分を腫れ物扱いする彼らの受動的姿勢に、彼女はメスを入れたかった。
居心地の良い場所を求め、内輪に留まり節制する彼らに、音楽とは、芸術とは、内から外に発してこそ美しいと叫んだ。
ただ、誰かを傷付けるための詩を書いたり行き場のない怒りを音楽にぶつけたりすることは、時に我が身を滅ぼすことにもなり得る。
正しさと正義は同義でもなければ、肩を並べる仲でもない。
彼女の中の天使が彼女に問う。
「自分を正当化する理由が欲しかっただけではないのか。」
「それは形骸化したロックではないのか。」
怒りと向き合う必要はあれど、怒りを根源にする必要はもはや彼女にはなかった。
ただ彼女は悪魔を憐れむ歌を口ずさんだ。
今作は正木諧ソロプロジェクト Low-key dub infectionによるあぐら女というバンドについて綴られた「アグラオンナはかく語りき」を加筆修正した短編小説です。
とはいえ、原型はないに等しいので同じ思考回路を紐解いた作品だと捉えて頂けると幸いです。
いつもと趣向を変えて、曲単位ではなくバンドの意図を短編小説として書きました。
形式は保つので以下歌詞もあとがきもありますが、性質上、続き物となってしまいます。ご容赦ください。
太陽 by あぐら女
誰だってあのサイレンに気付いてる
僕だってあの娘と逃げ出したいよ
返ってこない手紙の続きを考えて
突っ伏している
淡い期待の中でただ泳いでる
汚れていたけど笑うしかなかった
氷のように滴り落ちるだけだから
塗り潰すのさ
このまま全部置いて行くよ
どうせ綺麗には残らないし
はにかんだ笑顔がいつまでも
太陽を待っている
あの丘に登る、意味もわからず
気が狂うまで、踊ってたいのさ
太陽を待っている
誰だってあのサイレンに気付いてる
君ならどうする、ここから逃げるかい
はきだこ 第七回
悪魔的プロモーションの末、当時の首相への怒りの謳い文句を揶揄し「あぐら女を許さない」という貼り紙を学内にばら撒き、掲げられたまま演奏した。
冷房の効いた部屋でゲームに興じるのが音楽のあるべき形かと、憤りを感じていた。
本気で長になりたいと思っていたし、はっきりと優劣をつけたいと思っていたが、反対意見が多く頓挫した。
音楽に優劣はない。ただそこに注がれる熱量や向き合う姿勢など、芯となる部分には違いがある。
あぐら女だけはオリジナルソングを書き続け、前回のライブを超え続けようと思っていた。
旧メンバーは着床タメ(造語 1年未満の歳の差は同い年とほぼ等しいの意)だが1年早く亡命する者が居たため、あぐら女は短命だった。
彼らの千秋楽は無論、全新曲で迎えた。
敢えて歌詞を掲載しなかった「エンドロール」という曲の歌詞について、過去にカバーした楽曲から"革命"や"泣くなよbaby"の文言を挿入したり、ブルームーンが潰れたことに対する某国への危機意識の低さを当時話題になっていた北のミサイル問題に準えて言及したりした。
そういえば、キャロラインという腹違いの妹も居た。
同じ直線上であぐら女が必要悪という有様を最期に見せたかった。
そちらも全曲オリジナルソングで、目の色の違いを見せつけた。
出来ることは全てやった。
ビッチとして、やりたいことをやりたいようにやり切った。
憂うことはない。
ただはみ出し者たちが集結し、この日終結しただけだ。
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