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リリとロロ 「アザンの森」 ⑨ ⑩
どんどんと不穏な空気になっていくね(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
暗い。
中身は大人でもやはりこういった気味の悪い場所は怖い。
ただそれ以上に彼女は父親を手に掛けたという事実ものしかかり、恐怖心は計り知れないものだろう。
二人とも滴るほど汗をかいているが、ただ一度彼女を抱きしめた。
「大丈夫。何とかする。」
何とかってどうするんだ。
僕にもわからない。
ただ彼女の返答はなく、小刻みに震えるだけだった。
もう一度きつく手を握り直し、奥に進んだ。
湿度が高く地面には割れた硝子や濡れた落ち葉が敷き詰められていた。
二階建てのそこは住居なのかテナントなのか、ところどころ家具が置いてあった。
夜逃げなのか乞食のねぐらなのか、どんな物語があったのかはわからないが、マットを使い階段近くの壁を背に座り込み、寄り添って寒さを凌いだ。
「一晩だけここで耐えよう。」
「うん。」
「何か持ち物はある?」
「鞄は店に置いてきたから…。」
「じゃあ、話をしよう。」
僕は必死に小学生時代の話を思い出したり脚色したりして話した。
こんな習い事がしたかったって話、
二重跳びができなくてみんなの前で泣いた話、
そして僕の父の話。
最初は口を閉ざしていた彼女もそれに呼応するように、少しずつ強張る口を開いた。
詳しくは知らないが他人を虐げて生きてきた父の仕事の話、
家ではほとんど軟禁状態だという話、
そして母がいた頃の話。
なんだか夢の中にいるんじゃないかと、今になって思い始めた。
不安や恐怖は徐々に薄れ、目も慣れてきた。
「ねえ、陽太ってもしかして…」
「おい!ここにいるのかてめぇら!」
ヘッドライトのハイビームで部屋が照らされた。
逃げるよう燈里に目配せし、彼女もそれに応えた。
彼女が二階に登り終えたくらいの頃、男は怒気を纏い屋内に入り込んできた。
「燈里はどこにやった!お前ら殺してやるからな!」
もう誰にも止められない様相で足早に近付いてきた。
片目があった部分はぽっかりと穴が空き、ジーンズは赤黒く染まりお漏らしをしたようなみっともない姿だ。
ただ今まで座っていて気が付かなかったが背丈は180cmくらいあり、恰幅が良い。
「ここには居ない。」
持っていた朽ちた木で顔を狙うも腕で防がれ、男は僕の顔を掴み地面に打ちつけた。
後頭部に電撃が走った。
「何処の誰だか知らねえけど、ぜってぇ埋めてやるからな!」
鈍い破裂音と硝子が頭を擦りヤスリをかけるような音が脳に響く。
抵抗も虚しく男は馬乗りになり、一心不乱に拳を叩きつける。
鼻の骨は折れ、喉と繋がる器官は鉄臭く息ができない。
執拗に顔を殴っているのだろう。
視界も思考も黒ずんだ。
正木諧 「アザンの森」
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