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リリとロロ 「匂いのゆくえ」 ④



きれいな話。



彼女と出会ったのは高校の頃だった。


共通の話題は特にないがどこか居心地が良く、昼食を共にすることが多かった。


彼女の好きな音楽の話。

私の好きな本の話。

互いの好きについて気兼ねなく話し合える仲だった。



ちょうど読み終えた「音楽の海岸」。

きっと彼女は気に入ってくれるだろう。

そう思い家に招いたとき、彼女は目的のそれよりも本棚の上のアロマオイルに興味を表していた。



「良い匂い。」


「誕生日にもらったの。」



今までこんなに好きなものについて話してきたのに、彼女の嫌いなものが自分の匂いだと知ったのはこの時が初めてだった。


「私は気にしたことないよ。」

そう言うことは簡単だが、根本的解決には繋がらない。



「この匂いがすごく似合ってる。」



そう言われて嬉しかった。



ただ、彼女の表情には羨望の影が色濃く残っていた。



「あなたには似合ってる。私には似合わない。」

そんな悔しさが彼女の閉じられた唇の端から煙となって漏れ出している感じがした。



「今度一緒に見に行ってみよっか。」



なんてことはない言葉に、彼女は光を導き出したような表情を見せた。


好きなものの話をする時じゃない。

初めて見た彼女に何かが芽生えたような顔だった。



本は、まあまた今度でいっか。


正木諧 「匂いのゆくえ」


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