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現場のエンジニアたちは、往々にして味のしなくなったガムを噛み続けることがある

ビジネス感覚に欠けた現場には、味のしなくなったガムを噛み続けているエンジニアがいます。もちろん、本当に職場でガムを噛んでいるわけではありません(汗)。すでに要求を満たす成果を生み出しているにも関わらず、それを「ああでもない、こうでもない、ちょっとこうやってみたらどうなるだろうか」となぶりまわすことを“ガムを噛み続ける”と言う言葉で表現しただけです。

かつて私が自動車の設計者だったころ、そのひとりだったので実感があります。
技術に没頭し究極の性能を目指すのは私にとって当たり前のことでした。
この価値観や行動規範がかつての日本の奇跡を演出してきたのは間違いありませんが、ビジネスの複雑さが増し、価値観の劣化が急速に進む現代社会において、それはビジネスの足かせとなっています。

今日はそんな話をします。

ほとんど完成している作業をいつまでも手放さない技術者がいます。これがプロジェクトのコストを圧迫していることはよくありますが、それに気付いていない組織がほとんどです。

これは、以前に取り上げた「少しでも気を抜くと、現場は手当たり次第に作業に着手してしまう」という先走る技術者の話とは真逆のように聞こえるかもしれません。しかし、実は根っこは同じです。このような行動の根底にあるのは「技術者マインド」だからです。
「一刻も早く作業に取り掛かりたい」という思いも、「技術の完成度をできるだけ追求したい」という思いも、ともに技術者が根本的に抱えているマインドです。
完成度を追求する技術者は、成果と釣り合わない作業にお金を浪費します。残念なことに、これらの多くは「水面下のコスト」で、なかなか顕在化しません。

進捗管理の場では、先週までは順調だった作業がなぜ今週になっても完了していないのかが問われます。そして、技術者が味のしなくなったガムを噛み続けていることが判明します。その結果、開きっぱなしの水道の蛇口を閉めることができます。

つい最近、こんなことがありました。週次の進捗会議でのことです。数週間前に着手されたそのタスクは、期限を過ぎた数週間後でも完了していませんでした。
私は担当者に確認しました。

   「このタスクは、なぜ終わらないのですか?」
担当者 「すみません。あと少しで終わりそうです」
  「何か問題でもあるのですか?」
担当者 「問題というか、あと少しで性能に決着がつくのです」
  「いつごろ決着がつきますか?」
担当者 「明日やってみて、その結果次第です」
  「明日はいい結果が出そうなのですね? いい結果が出る前提で、このタスクはいつごろ終わりますか?」
担当者 「でも、何度も失敗してきたので… いつ終わるか言わないとだめですか?」

このやり取りに不安を感じた私は問い掛けを続けました。

   「だれか有識者とは相談しているのですか?」
担当者 「はい、相談しています。その結果、効果的な解決案に辿り着くことができました」

私は技術の専門家ではないので、それ以上の追求は避けました。
来週まで様子をみるか… そう思ったとき、ある記憶が蘇りました。かれこれ20年ほど前によく議論していた「学生症候群」の記憶です。
私はなんとなく質問をしました。本当に “なんとなく” です。

   「その性能は閾値(求められる最低限の値)を満たしていないのですよね?」
担当者 「閾値は満たしています。もう少しで、もっと上の性能を実現できるのです」

その表情に、悪びれた様子は微塵もありませんでした。彼の周りでは、有識者も含め、それが当たり前の行動だったのでしょう。
もし進捗会議をやっていなかったら、もしいつまでも完了しないタスクに私が業を煮やさなかったら、彼が費やしたコストは必要コストとして水面下に隠れてしまっていたことでしょう。

遠回しに聞こえるかもしれませんが、この事例を読んでもらえばわかるように、現場の技術者マインドを活かすには計画が欠かせません。

ちなみに「学生症候群」には以下のような行動が含まれます。これらの行動がプロジェクトの遅延やコストオーバーランにつながるということで、多くの学者や専門家の議論の対象となった時期がありました。

[学生症候群の典型的な行動]

・ 夏休みの宿題  :ギリギリにならないと作業に着手しない
・ 食い散らかし  :いくつものタスクを食い散らかし、どれも終わらない
・ 味の無くなったガム:作業が完了しても余裕の限り完成度を高め続ける

皆さんも、ぜひもう一度、職場の働き方を点検してみてはいかがですか。


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