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笹塚 心琴
2021年5月19日 16:39
しとしとと雨の降る夕まぐれには、決まって彼のことを思い出す。彼はこういう日にこの喫茶店に来ると、いちばん窓際の席に座って、ずっと外を見ていた。雨だれがガラスに打ちつけるのを寂しげに、しかしどこか楽しそうに眺めていた。彼はいつも同じ文庫本を持ち歩いていた。気に入ったページにはよれよれの付箋が、青々と茂る芝生のように大量につけられていた。それでは意味がないのではと尋ねたことがあったが、彼ははにかん