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Drive!! #44 ボート X 小説

レート28を指定したが、先ほどまで高レートで漕いでいたので、後ろのクルーが突っ込みがちに漕いでいる。
だが川田は特にコールを出さず、安心して成り行きを見守った。
***
俺の予想の通り、ストロークの橋本は5本で28ぴったりに合わせた。
艇の中心の雄大と下屋は、やはり自分たちのペースでレートを上げてしまっている。その後ろの杉本と翔太がさらに混乱しているのがブレードでわかる。漕ぐ長さがバラついている。

淡々と漕ぐ橋本。
混乱する後ろの漕手も、やがて橋本のペースを掴み合流する。

「ノーワークでいこう、さあいこう」
ゆったりとしたペースに戻す。何度か繰り返す。レートはバラバラで。橋本は24〜38のランダムなレートにきっちり5本でアジャストした。

「橋本さん、やべえ。凄すぎ」
と岡本がノーワークの時にはしゃいでいる。
「いや、普通だよ」と橋本は謙遜しているが、これは普通じゃない。

それはもちろん"相方"である辰巳に支えられてもいた。
いくら正確な橋本でも、バウサイドが暴れていたらもう少しレートを整えるのに時間を要するはずだ。

「雄大どう?漕ぎにくくない?」
「ものすごく漕ぎにくい。自分でペースを作るより、こっちの方が俺には大変に思える。」
その後ろで下屋も頷いていた。どうやらひとつ目の狙いは見事にハマったようだ。

エースの雄大が難しいと言ったこと。それを普段何気なくこなしている二人への信頼は、クルー内でさらにましたはずだ。
本人たちも少しは自信をつけたはずだ。

あとは、どういう時に自発的に動けば良いか、雄大や下屋の気持ちを今度は橋本と辰巳に理解してもらう番だ。そろそろ練習を二つ目の狙いのために切り替えよう。

「じゃあ、最後に500mのトライアルやるよー」
今日も最後まで良い練習になりそうだ。

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