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Drive!! #98 ボート X 小説

エイト第2組の1300m地点で六甲大学は蒼星大学との差を2シート分に広げた。
普段はレース中盤で先行されることなどなく、蒼星大学のCOX森泉 直(なお)は焦りを感じていた。
一刻も早く追いついた方が良いかと思い、アタックを入れようとした。
***
もうすぐ1500mに差し掛かる。ここまできたら相手もスパートでがむしゃらに漕いでくる。このまま逃げ切られるかもしれない。
「アッタクいくよ、準備して」
「いや、直さん、このままで大丈夫っす、多分」
珍しくストロークの荒木が声をかけてきた。普段は自信なさげで無口な方だが、何か確信があるのかもしれない。
私生活はともかく、こいつのボートセンスは間違いなく一流だ。

「たぶん相手、相当無理してるはず、、、、。どっかで落ちます。焦らなくて良い」
信じてみよう。俺はコールを訂正した。
「アタックなし、レートキープで」
前の方のシートだけだが、そのほかのメンバーの表情も確認した。荒木が言うならとみんな納得しているように感じた。

その予言はすぐに具現化した。先ほどまでじわじわ差を広げられていた六甲大学。しかし、その姿が若干大きくなってきた。

1500mでその差は再びワンシートまで縮まった。
そして混乱しているうちに、並んでしまった。

"なんでだ?さっきまでの相手の勢いはどこに行ったんだ?"

俺は全く持ってレースに貢献できていない気がするけど。
とにかく勝てそうで何よりだ。助かった。

ほっと胸を撫で下ろしかけた時、六甲のCOXが大声で叫んだ。
「スパートいこう!さあいこう!」

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