Drive!! #125 ボート X 小説
翌日の朝、少々明るすぎるような気がする以外は兄はいたっていつも通りだった。俺たちは、今年の最後のレースに向かう。
今日はとても快晴で風もなく、コースは凪いで鏡のようだった。
みんな敗戦を引きずっている様子はなく、吹っ切れてさっぱりとしてる。
川田さんはいつものように笑い、下屋さんは静かに兄と言葉を交わしていた。
辰巳の周りには二回生の三人が集まって仲良く話していて、なんとなく来シーズンのことを頭でイメージした。
橋本は一人でぼけっとしてるように見えるけどそうじゃない。あいつなりの集中方法だ。
感傷的な気分にはならない。
でもこれがこのクルーでの最後の試合だと思うと、ただいい漕ぎをしたいとは強く、はっきりと思った。
結局、上位4クルーは関東選手権の上位クルーと同じだった。
帝東、紅陵、蒼星、洛修舘の4クルーだった。
六甲も善戦したが、紅陵と洛修舘に次ぐ組で3位だった。
俺たちと同様に今日のB決勝に出場する。
このレースが終わったら、四回生の3人にはもう頼ることはできない。明日の朝から、俺が主将だ。
ミーティングで自分が先陣を切って話をするイメージが持てない。
きっと俺たちは頭の整理ができていないままで、走り始めるだろう。
でもボートで繋がっている限り大丈夫だ。
試合前のみんなを見ているとそのことを再確認できる。
悔しくないわけがない。俺が出した結論だ。
兄だって悔しくて、たまらなかったはずだ。それを隠してくれたからこそ、チームが繋がっているのだ。
悲壮感に任せて声を張り上げていたら、気持ちよくレースには臨めなかっただろう。だから、少し無理をして昨日から明るくいるに違いない。
主将になることを目前にして、少しだけ兄の気持ちがわかった気がした。
兄が合図をして、俺たちは円陣を組んだ。
「いつも通りいこうぜ」
と兄がいつも通りの声を出した。
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