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Drive!! #93 ボート X 小説

エイト予選第2組の勝者は、750m地点で早くも2クルーに絞られた。

共にスタートに自信のある、蒼星大学と六甲大学。お互いのレーススタイルで真正面からぶつかり合っていた。

近年、特に関西勢は蒼星大のスタートに恐れをなし、スタート勝負を挑んでくることすらない。

でもこの六甲大学は違った。真っ向勝負を挑んできた相手に、蒼星大学のCOX森泉は胸の高鳴りを感じていた。

自分たちの実力が遺憾無く発揮されることが嬉しい。
そしてこの六甲大学がかなりの実力を持っていることが、その嬉しさを倍増させていた。
森泉は迷わず六甲が仕掛けて来たアタック合戦に乗った。
***
「アタックいこう!さあいこう!」
俺は迷わずアタックを入れまくる。漕手もそれを求めているのが分かる。
勢いに乗ってどんどんと艇速を伸ばす。
そしてこのトップスピードを少しでも長く感じていたい気持ちは、俺よりも漕いでいる8人の方が強いに違いない。

750m地点のアタックで先ほどまで並んでいた六甲大学とは、ワンシートの差が開いた。

簡単な勝負に勝っても仕方がない。
この六甲大は予想よりかなり手強い。そして何より腹を括っている。
そして俺たち以上に迷いがないように感じる。

相手のCOXは絶え間なくアタックを入れている。これはある種のチキンレースの様相を呈して来ている。

どちらが先に怯んでしまうか。そして攻めを控えめにした瞬間、一気に流れは相手に持っていかれるだろう。

レートが少しばかり落ちている。それを無理やり次のアタックでこじ開けた。いくらスタート型とは言え、これほど前半からアタック合戦になることは少ない。メンバーの息もかなり荒く、普段の漕ぎからすると若干無理していることは否めない。

でも俺たちがバテている分、相手もかなりしんどいに違いない。

ここで引くわけにはいかない。このレースは、俺の勘だと1000m地点でトップに立っている方が勝つ。

元から奇襲を仕掛ける気でいた相手の方に少しばかり有利かもしれない。でもこれを跳ね返せないようでは、紅綾や帝東にも負けてしまうだろう。

漕手たちの体力的に大体のペース配分の感覚を持っているつもりだが、ここまで前半で攻めまくったことはない。どのくらい後半の1000mで
未知のレースになるだろう。それはこれまでの経験がまるで使えないことを意味していて、その領域に踏み込むことを俺は躊躇した。

850m地点のアタックは回避しよう。今の無理やりな漕ぎを後半に向けて少しだけ立て直したい。

その時、隣のレーンでは「アタックいこう、さあいこう」と迷わずコールが入っているのが聞こえた。

"こいつらまじか"
白状すると、俺はその時完全に相手の策に、怯んでいた。

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