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Drive!! #124 ボート X 小説

目が醒めると、夕方だった。
午前中のレースの活気も静まり返って、宿舎である公民館の周りもあとはゆっくりと暮れるだけだ。

寝転んだまま天井を見ていると歓声が聞こえた。なんだこれは。
「おー、起きたか。もうみんな銭湯行ったぞ、お前も行ってこい」
兄だ。手には横向きのスマホがあり、それで今日のレース動画を見ているらしい。
のんびりしたその声を聞くと、それだけでこの部屋を早く立ち去りたい気分になった。

ああ、みたいな、おおみたいな適当な返事をしながら、風呂の準備をした。
手提げにタオルやら下着やらシャンプーやらを詰める。

怒りをぶつけてみようか。
ふとそう思って、兄の顔を見てはっとする。
そして俺は逃げるように部屋を後にした。

階段を下り、クロックスを突っ掛けて、銭湯に向かって早歩きで歩いていく。

兄の目元が光っている気がした。
気のせいかもしれない。

確かに俺に分かることは風呂の準備して部屋を出ていくまで、兄は繰り返し繰り返し、今日のレースの動画を見ていたということだけだった。

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