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Drive!! #117 ボート X 小説

"Attention Go" のコールで様相は一変した。

水面をブレードが捉える音、オールとリーガーのオアロックがぶつかる鈍い音、スピーカー越しにCOXの声が響いて、あたりは音で充満した。

まず先頭に出たのは、やはりというべきか、蒼星大学だった。
彼らの艇だけ軽いのではと思うほど、スルスルと水の上を滑っていく。レートは42くらいだろうか。
ただ帝東と阪和も1艇身以内の差では付いていく。

「やっぱり先に出た方が有利なんですか?」
「そう言われてるみたいだな」
瀧野に聞かれたが、俺はボート部のブログで読んだ文章での知識しかなかった。先に相手の姿を見ながら漕ぐことができるので有利だとされている。
だが抜かされるときは抜かされるし、自分の体力が最大限発揮されるようなペース配分がいいのではないだろうか。

いずれにしても俺にはレースに出た経験がなく、憶測の域を出なかった。
瀧野は"ふーん、そうなんですね"と言ったきり黙ってしまった。

多分俺の記事を読んでくれた人にも、同じような気持ちを抱かせているに違いない。
どこどこ大学が、何分何秒でした。エルゴはこのくらいだそうです。何年ぶりの優勝だそうです。エントリーは何クルーでした。
数字の羅列。

それを読んでも、ふーんと思うだけだろう。
何か今までとは違う記事を書いてみたい。
漕いでいる人の景色を知りたいと思った。

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