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Drive!! #37 ボート X 小説

ミーティングルームで、帝東と紅陵の漕ぎに驚いた後、4回生でCOXの川田は、頭の中で練っていたレースプランを発表した。

***
「まあ、これは一旦の仮プランだね。細かいアタックの位置とかは、漕ぎ込みしながら作っていこう」
「あのー、アタックってなんですか?」2回生の杉本が質問する。このところ杉本は自分からミーティングで発言してくれる機会が増えた。

「そうだね、杉本はまだあんまりエイトとか乗ったことないもんね。アタックっていうのは、レースのポイントで意図的にスピードを上げるために、クルー全員でドライブの強さを上げることだよ。COXの俺が”アタック10本”とかコールを掛けるから、それに合わせてドライブを上げてくれ。レース中に絶対に離されちゃいけない場面とか、一気に突き放したい時に、容赦なくコールするよ」
「分かりました。心して上げます」
「うん、頼むよ」
杉本も六甲戦以来、ずいぶんと頼もしくなった気がする。彼の中で何かブレイクスルーがあったのかもしれない。

「川田はこう見えて、舵を握るとドSだからなー」
と翔太が冷やかして、みんな笑っている。

だがそれは間違っていない。
自分でもCOXのシートに座ると人が変わるなと思う。

”この艇は俺のものだ”とさえ思うことがある。
自分の声でレース展開が変わる。
自分のスパートのタイミングで勝敗が決まる。
これまでいくつもそういうレースを経験してきた。

”競り合っている時に、COXの真価が問われる”
”1艇身以内の敗北はCOXに責任がある”
と先輩COXから言われてきたが、それは言い得て妙だった。

そしてレース中だけでなく、普段の練習から、艇全体を俯瞰して見ることができるCOXがクルーをプロデュースしていくのだ。
キャッチからドライブを押すクルー、フィニッシュにかけて加速するクルー。スタートダッシュ型、スパート型など、どういう戦術でどういうクルーに仕上げるか。漕ぎのリズムなどもCOXの自分のテコ入れで、チームを変えていく。

そして今日からインカレ前の最後の練習の山場が始まろうとしている。
ここからがCOXの腕の見せ所である。

先ほどの帝東や紅陵の漕ぎは衝撃的だった。
でも、まだ時間はある。俺がこのチームを勝たせてやる。

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