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Drive!! #114 ボート X 小説

大会3日目。エイトは上8クルーによる準決勝に突入した。
2組4クルーずつでそれぞれの組の2着までがA決勝に進出する。

昨日までとは違い大会会場も静けさに包まれていた。

闘いの純度が増している。阪和大学主将の桂翔太はこの大会が別のステージに突入したことを感じていた。
***
この準決勝のレースは難しい。
自分で言うのも変な話だが、俺たちの予選での漕ぎは実力以上の素晴らしいものだった。
それだけに具体的な修正点を見出せずに、クルーの意思統一もできていないような気がする。

普通なら「スタートでもっと加速しよう」とか「中盤のペースダウンを少なくしよう」あるいは、「アタックでもっと劇的に艇速を上げる」とかレースプランでの課題がある。

もしくは漕ぎでも「エントリー素早く」とか「フィニッシュまで押してから」とか漕ぎの一連のサイクルの中のどこかに意識を集中させることが多い。

そうやってクルーの統一感を自然と出してきた。

でも前のレースが良すぎただけに、逆に課題を絞れなくなってしまった。

それにクルーのみんなの表情は柔らかく、いや、それ自体はいいことなのだが、どこか緊張感に欠けるような気もする。

もちろんリラックスは本番でいい効果を生むかもしれない。
でも厳しい勝負の瀬戸際が訪れたとき、パニックにならないだろうか。

頭の中を迷いを含んでぐるぐるしてきた。

いや、大丈夫、俺が今更何を言ってもそんなにレースには影響しない。
そう割り切って、俺はクルーのみんなを呼び寄せた。

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