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Drive!! #45 ボート X 小説

インターバルでは真価を思う存分はっきした橋本だったが、500mのトライアルでは、後ろのメンバーに助けられる形になった。
これもある程度は川田の予想の範囲内だった。
***
インターバルで橋本と辰巳の安定感をクルー内に浸透させたあと、500mのトライアルに移行した。スタートは付けずに500mのタイムトライアルを行った。
最初の250mほどは淡々とレースペースを継続できたのだが、後半はレートが落ちる場面があった。それを察した、後ろのメンバーが自主的にアタックを入れて橋本を助太刀し、なんとか500m保てたという感じだった。

そもそもいきなりストロークに座って、インターバルとはいえレートをピタリとアジャストした橋本は見事だったが、500mともなるとやはりリズムを維持するのは困難だった。

500mのトライアルを終え、橋本に感想を聞くと、
「ペースが落ちかけたが、途中で戻すことができた。」
という感覚を持っていた。明確に後ろからのアシストを感じる余裕はなかったかもしてない。
「後ろのドライブで押し上げてもらって、戻せた感じ?」
とヒントを出してみると、
「あ、確かにそうです。落ちそうな時に、後ろからグイグイ押してもらって、元のリズムに戻った気がします。」

" じゃあ、橋本が4番のシートに戻った時に、同じように漕いでね"
とは言わない。最後の部分だけは、自分で気付けるように残しておく。
まあさっき大きなヒントを伝えてしまったが。それでもやはり本人が”自分で手に入れた感覚だ”という意識を持てるかどうかが大切だと思う。
押し付けられたテクニックや考え方なんて、本当の意味では身につかないだろう。

俺は納得してその日のメニューを終えた。
シートを元に戻してダウンをして、その日は終了した。

今日の感覚が残っていれば、"ストロークが厳しい時、後ろから押して助ける。"そういう引き出しを橋本が身につけてくれる日も近いだろう。
こうやってひとつずつ、クルーとしてできることを増やしていく。

俺たちは強くなっている。でもライバルの強さを思うと、やはり一瞬も無駄にはできない。
インカレまで残り3週間。

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