Drive!! #97 ボート X 小説
「剛田、分かってくれるよな」
後ろを漕ぐ友永からそう告げられた剛田は、このままのペースで漕げば体力がもたないことは明白だったが、手を緩めないことを決心した。
***
俺が考えるに、友永の真意はこうだ。
"次世代に託す"
自分たちにとっては引退試合になるこのインカレを、後輩たちのボート人生における第1クォターに位置付けた。
このレースの主眼は勝つことにはない。恐らく後輩の経験を第一に置いているに違いない。関東でも指折りの強豪校である蒼星大学と、手応えのあるレースをすることで、後輩たちに勝つイメージを持ってもらいたい。というものだと思う。
友永と俺の二人は今まで小艇で漕がせてもらって、色んな大会で勝つことができた。でもチームに還元できたことは少ない。
今年主将と副賞になってから、慌ててチーム作りについて考えたが、ほとんど急造のようなエイトでは関西を制することも叶わなかった。
他大学は、下級生の頃からずっと同じ艇の上でやってきた信頼関係がある。それに比べると、なかなか練習中から意志が共有しずらかったように感じる。
特に阪和大学に負けた関西選手権では、そのチーム力の差を痛感した。
そしてそんな状態では、強豪がひしめき合う関東勢と闘って戦績を残すのは難しい。にも関わらず俺たちは迷わずこのインカレではエイトを選択した。
思えばその時から、俺と友永は意志を無意識に共有していたような気がする。
このレースで勝つイメージを持ってもらう。それが今後のチームのためだと判断した。もう一度俺と友永でペアで出て勝利を目指すという選択肢もあったが、俺たちはそれを選ばなかった。何かを残したい。このチームに。
その思いを無意識のうちに共有していたのだと思う。
だから少しでも長く。少しでも遠くまで、この蒼星クルーの背中を見ながら漕ぎたい。たとえ最終タイムがボロボロな結果でも。
俺は今一度大きく息を吐いて、肺に新鮮な空気を取り込んだ。
もう乳酸は溜まり切っていて、レートを維持するのも精一杯になってきた。
残り700mもある。でもこれでいい。
あとは託す。たとえ今日散っても。
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