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Drive!! #118 ボート X 小説

1000mで3艇は横並びになった。
蒼星、帝東、そして阪和の3クルーがほとんど同着でレースの中間地点を通過した。

洛修舘大学スポーツ紙サークルの墨田は奇妙な気持ちを自覚していた。
レースの決着は後3分もすれば付いてしまう。漕手の一漕ぎごとにましていく自分の心境に混乱していた。
***
いつもは、何かにつけて騒いでうるさい瀧野も静かにレースの行方を見守っていた。
俺も声が出せずにいた。
自分は漕いでもいないのに息が詰まりそうだった。

最初に仕掛けたのは帝東だった。
1200mでわずかに蒼星と阪和の前に出た。
他の2艇も付いていこうとするが、

A決勝への出場権は上位2艇。
阪和か蒼星どちらかが負ける。

個人的には知り合いでもないでもない選手が漕いでいる。
そしてスポーツは勝敗がはっきり出る。ボートのようなタイムを競う競技ではその色はなおさら濃い。
積み上げてきた数年間の時間が、ひとつのレースであっさりとそして無残にも散っていくこともある。

それを承知で戦っている漕手たち。負ける人がいて勝つ人がいる。そのシビアな世界に身を投じて受け入れている人たちなんだ。
俺はそういう世界に身を投じたことがない。なんだろうこの気持ちは。

素直に言葉にするなら、ここにいる全員に勝って欲しいと思っていた。

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