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Drive!! #59 ボート X 小説

自販機の前で不意に出くわした同期の前で、橋本は決心した。普段あまり話したことのない雄大と話してみよう。

決心とは大袈裟に思われるかもしれないが、辰巳を除いて雄大と話している同期はほとんどいない。雄大は、どこか近寄りがたい雰囲気を持っている。俺が勝手に思っているだけかもしれないが、少なくとも俺はこいつと話すのが怖い。

もしかしらた怖さの根源は、相手に含まれているのではなく、自分の後ろめたさからくるのかもしれない。
徹底してボートに身を捧げる雄大。その本人と話すことで、自分の甘さや矛盾が露見するのでは。そういう想いが、怖さの根源かもしれない。
考えてみれば、彼自身、雄大にに何か嫌がらせをされたとか、練習中にミスを咎められただとか、そういった経験は一切なかった。だから、相手は悪くない。

だが原因を朧げに把握したところで、相手が雄大であれば、ただ「同期と話す」それだけのことで橋本にとっては一大事である。

橋本には、不健康な飲み物とされているコーラを相手が飲んでいることが、何かの希望にも思えた。
***
「雄大もコーラとか飲むんだな」
もちろん別にコーラくらい飲むだろうと思うものの、どこか勝手に抱く雄大へのイメージとは乖離があった。ああ、これ?と笑いながら雄大は応える。

「なーんか、無性に飲みたくなる時あるんだよな。本当は体に悪いってわかってんのに。でもさあ、お前もここにいるってことは、自販機かコンビニとかになんか買いに来たんだろ?」
その通りだった。自分は乳酸菌飲料を買いに来た。
雄大のコーラのように無性に飲みたくなる時がある。細い共通点でも今は嬉しく思った。

「あのさ、変なこと聞いても良いか?」
雄大は返事しない。ただ俺の顔を見つめている。否定をしない。それが口数の少ない雄大なりの肯定の仕草なのだろう。
話を続けよう。

「なんかさ、負けるクルーのこと考えることってある?」
言葉にしてから、馬鹿なことを言ったと思った。コーラとかの話して、戸田にも来てて、俺ちょっと調子に乗ったかもしれない。うわー、頼む、早く終わってくれ、この会話。

俺は頭の中で、祈ったり、絶望したりを、短時間で目まぐるしく繰り広げながら、相手の返事をまった。

「あー、なんかそれ、わかるかも」
帰ってきたのは、意外にも共感だった。

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