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Drive!! #56 ボート X 小説

15時30分に昼寝から目覚めた橋本は、練習30分前だということに気がついた。見渡すとまだ目覚めていない漕手もいた。2回生の3人を起こして、自分も準備を始めた。
***
外に出ると、夕方でも日差しが強く。まだまだ暑かった。エイトのメンバーで連れ立って歩いてコースまで向かう。先頭を歩く主将の翔太さんの元この1年漕ぎ続けてきた。

掲げている目標は「日本一」だった。

チームのみんなにはどこか申し訳ない気持ちもあるのだが、自分はそこまで多くをボート漕手としての自分には期待していなかった。

中学の時は吹奏楽部で打楽器を担当していて、高校では帰宅部だった。そんな自分がバリバリの体育会のボート部でレギュラーになって漕いでいる。

チームに認められて力になっていること。
自分のベストを尽くすこと。
それだけで満足してしまっている自分がいた。

ボートを始めて、最初は続けているだけでも自分を褒めていた。ランニングもろくにやったことのない自分が、朝晩の厳しい練習に耐えているだけですごいと思った。

でもだんだんと自己ベストを出す自分をもっと褒めたくなった。
それの繰り返しでいつの間にか、部の代表として試合に出られるようになった。そのうちに勝つ喜びもチームで味わった。吹奏楽で活動している頃から、「他人と比べること」それが自分の中にはネガティブなものとして認識されていた。

ボートを始めて2年と少し。相手に勝った時に湧いてくる喜びに、まだ馴染めない自分がいた。スポーツで必ずと言っていいほど発生する、人と比べること。その側面に自分の体と心が完全に馴染んでいないと自分は感じている。

それはいいことなのか悪いことなのか。

ボートは隣にライバルがいる。自分がベストを出した横で、自分より速い人がいる。自分のベストを出せればいい。今までの自分の掲げてきたそれが、スポーツに持ち込むべき気持ちでないような気がしている。

相手のいない練習が俺は好きだった。自分たちができなかったことができるようになる。それが一番自分にしっくりくる。

でも当たり前だが、練習をこなせばこなすほど、試合の日程は近づいてくる。

相手と比べる日。今まで誰にも話したことはないが、まだその違和感は消えていない。

考え事をしながら歩いているとあっという間にコースについた。水上を見渡すと、朝ほどではないが沢山のボートが浮かんでいる。

このほとんどがインカレで誰かには負ける。
負けずに4日間の試合日程を終えるのは、ほんの一握りだ。

だったら負けるために日々があるのだろうか。
そんなことを考えると、ますます迷いは濃くなってきた。

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