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Drive!! #38 ボート X 小説

インカレを3週間後に控えた漕ぎ込みの時期。COXの川田は、いま目の前で漕ぐ8人の特徴を改めて頭に浮かべていた。
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まずはストロークの雄大。バウの翔太。この二人はうちのクルーの中でも盤石だろう。雄大は淡々と自分のリズムを刻み、一番後ろの翔太は主将になってからさらに艇全体を俯瞰して漕いでくれている。

雄大はここ最近本来の漕ぎを取り戻しつつある。1回生で入部した年のインカレで、兄の翔太とペアで優勝を逃してからの長いスランプを脱していた。エルゴスコアも6'25"とチームでは一番の記録を持っている。漕ぎのリズムとスパートの加速は、この男にかかっている。

それから艇が真っ直ぐ進んだり、バランスがいいのはバウの翔太の配慮によるところが大きい。エルゴスコア6'28"を有する主将は、ドライブを弱めず、バランスも気にして漕ぐという至難の技をこなしている。俺たち阪和大の中でも一番のテクニックを保持しているのは翔太だろう。力の雄大、技の翔太といった感じだ。またCOXの目の届きにくいバウフォアの動きの修正や声掛けなんかも翔太が担っている。漕手であり、もう一人のCOXでもあるという感じの存在だ。

そして、雄大のすぐ後ろの7番を漕ぐ下屋は、クルーで一番長いレンジを有する。長いということは、それ以下の長さには調節可能ということでもあり、下屋は雄大のリズムを完璧にコピーできる貴重な存在である。雄大が自分のリズムで漕ぐことができるのは、実は後ろの下屋の安定感に支えられているからこそである。もし7番がズレた漕ぎをしていたら、バウサイドのメンバーは大きくリズムを外すことになる。下屋が雄大の漕ぎを汲み取ることができるからこそ、反対のサイドにもリズムが伝わっていく。エルゴを6'31"で回すこいつが、もともとマネージャーだったのは、今となっては驚きだ。

今の阪和大のエイトを引っ張っているのは、間違いなくこの3名である。
だが次のインカレでの勝利を手繰り寄せるのには、その他の5人がポイントになる。2回生の岡本、井上、杉本、そして3回生の辰巳と橋本。

まずはもう一人、ストロークサイドに軸になる存在が欲しいところだ。
俺は密かに無口な男に目をつけていた。

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