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Drive!! #116 ボート X 小説

みんな眠っているのではないか?
そう思うほどにスタート地点は音がなかった。

墨田は瀧野とレースに並走するバンに乗車していた。
***
車両に乗るのは初めてだった。
「どうせならレース全部が見たいですよー」
と瀧野が騒ぎ出し、大会本部にお願いしたらあっさり"いいよ、乗ってきな"と言われてハイエースに乗車した。

肉眼でボートのレースを最初から最後まで見るのは初めてかもしれない。 Youtubeで動画として見たことがあるくらいだ。

いつもゴール付近でしかレースを見たことがないので、今目の前に並んでいる4艇がこれからレースをするイメージがつかない。

進行方向に近い2名(バウペア)が細かく水面を掻いて、艇の方向を整える以外はほとんど無音だ。選手は皆自分が今まで見たような熱気を帯びておらず、眠っているようだった。

「さあ、そろそろ出るから、乗ってね」
大会スタッフの女性に言われ、彼女が運転する車内に乗り込んだ。

"2minute"
レース二分前を告げるアナウンスが聞こえてから空気が変わった気がする。
目の前の風景は無音だが、リラックスとか、緩みとは無縁だった。
張り詰めた厳かな雰囲気が漂っている。瀧野も珍しく口をつぐんでいた。

各大学の名前がコールされる。いよいよレースが始まるのだ。

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