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二つの家 vol.4

二、三年前に経験した、個人的なできごとについて書いています。

前回の話し

その白い木造の家は、中も白が基調だった。
床は濃いマホガニーで、落ち着いたよい色だ。

長い廊下に、えんじ色の絨毯が敷いてある。そのせいか、ますます、廊下が長くて見えた。廊下沿いの壁には、幾つか、感じのよい絵が飾られていた。
重くもなく、軽くもない、草花や人物の洒落たデッサンだった。

廊下の左側にあるリビングには、古いけど、焦茶のいい革のソファが置かれている。
テーブルには読みかけの本が何冊か積まれている。
壁際には、小さな暖炉が見えた。

そして、廊下の突き当たりには、広々とした、気持ちの良さそうなダイニングがあった。その窓から、雨の雫を受けた庭の木々が見える。

キッチンの適度な散らかり具合が好ましい。
使っている、大事な生活の場、という雰囲気が安心感や温かい気持ちを感じさせてくれる。

私は、どうして、住んだこともないこの家を知っているんだろう。

この家の二階に、主寝室含め部屋が幾つがある。
その一室が、私の部屋のようだ。

壁は、ラベンダー色だった。
大きな花柄のベッドカバーがとても好みだった。
真っ白の、形違いのクッションが幾つか並んでいる。

窓側に、マホガニーの小さな勉強机がある。
アンティーク調のデザインの小さなランプが目にはいった。

クローゼットを開けると、色とりどりの洋服が並んでいた。
どれもこれも、デザインはシンプルで、質の良いものばかりだ。

私はお気に入りの、水色のリネンの半袖ワンピースを着ている。
袖が少し小さめで、ほんの少しVネックの。
大きなポケットに手を入れて、スカートをヒラヒラさせるのが好きだった。
飾りのリボンベルトが付いていて、私は、外国の女の子みたいに、後ろで小さく結んでいた。

Mumが、丁寧に、丁寧に、髪をブラシでとかしてくれて、小さなピンで前髪を留めてくれた。

私の部屋から扉で繋がった個室がある。
本の部屋だ。
小さなスペースだが、天井までの本棚に本がびっしり詰まっていた。
この部屋には、フカフカの毛足の長いラグマットが敷かれていて、ごろんと横になって本が読めた。

下から誰かに呼ばれる声がして、私は、1階に降りて行った。

キッチンの脇につながる小部屋は、特別な部屋だ。

緑の天板の大きな木製の机と、木製の長方形の椅子が幾つか並んでいる。
天板の上には、まだ、粘土が残っていた。 

ここは、アートシェッドだ。
粘土の他にも、美しい色の絵の具がたくさん並んでいる。
私は、何時間でも、ここで過ごしてよかった。

ここでおやつを食べながら、紅茶を飲みながら、心の赴くまま、手を動かし、作品を作った。

いくつも、いくつも。

続く