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ファッションとDXで、地域活性化と人材育成を

1.「ファッション」はライフスタイル

 ファッションで地域活性化というと、奇異な印象を持たれる方も多いだろう。ファッションと聞いただけで、チャラチャラした若い女性を連想し、自分には関係ないとそっぽを向かれるかもしれない。
 ファッションという言葉には多くの意味がある。「流行」「風俗」「アパレル」などが一般的かもしれない。
 しかし、パリのオートクチュールなどは、伝統工芸や技術を駆使した、総合芸術ということもできるだろう。プレタポルテのコレクションも、単なる服の発表だけでなく、現代の時代性を表現し、新たな価値観や世界観を提示する場でもある。
 結局、全ての人がファッションに関係している。どんな高尚な人も、本能だけで生きているような人も服を着ない人はいない。人の数と同じだけのファッションがあるとも言える。
 そう考えていくと、「ファッション」とは、「人」を中心にアパレル、ヘア&メイク、雑貨、インテリア、ダイニング等を含むライフスタイル全般の様式や世界観、価値観を表す概念とも言えるだろう。
 しかも、ファッションは論理性だけでなく、感情や情緒、感性の分野も含む側面も合わせ持っている。
 グローバルな時代には、グローバルなファッションが中心だった。西欧発のトレンドが世界共通のファッションとして流通していたのである。それが行き着いたのが、ファストファッションだろう。
 しかし、既にファストファッションは飽きられている。グローバルサプライチェーンで大量生産し、世界中の規格化されたショップで同じ商品を大量販売する。常に新しいトレンドを追いかけ、半年毎にバーゲンセールを行い、売れ残った商品を廃棄する。ファストファッションのビジネスはサスティナブルではないのだ。
 サスティナブルなライフスタイルとは、限られた資源の中で、必要なもの必要なだけ作り、長期間大切に使い続けることである。
 価格競争は貧富の格差を生み出すだけだ。地域のアイデンティティに基づいた商品を地域で消費すれば、地域の産業や雇用が守られる。それを消費することは、地域を支援することにつながる。そういう意識を取り戻すことが、地域活性化の原点になるだろう。
 

2. 地域の歴史、文化、風土、暮らしの発掘

 日本各地の地域には、独自の歴史、文化、風土があり、そこで暮らす人々のライフスタイルがある。それらを整理して、その地域で幸せに暮らすコンセプトを発掘し、ブランド化する。
 ベタな事例を上げれば、地名にサスティナブルライフを組み合わせるのはどうだろう。
 「浜松サスティナブルライフ」、「桐生サスティナブルライフ」、「鯖江サスティナブルライフ」など。それをたたき台にして更にアイディアを出し合う。
 浜松は綿織物の産地であり、楽器メーカーでも有名なので、「浜松コットン&ミュージック」も良いかもしれない。
 桐生はジャカード織物の産地であり、機械メーカーも多いので、「桐生紋織機甲団」はどうだろう。
 鯖江はメガネ産地であり、チタン加工技術で有名なので、光学と金属で宇宙的なイメージを表現するのも良いかもしれない。「サバエ星雲」、いっそ「サバエ星人」か。世界で最も幸せな星に住むサバエ星人のライフスタイルという設定だ。サバエ星人の姿を自由に発想してもらい、イラストを募集するところから始めるのも面白い。
 ファッションというより、ライフスタイルのコンセプトが重要なのだ。様々な切り口があるので、どんな業種、企業でも参加できる。
 製造業だけでなく、農林水産、流通、観光、サービス、飲食、建設、病院、学校等を包括した地域ファッションブランドである。
 それらをテーマに話し合い、自分たちの地域とライフスタイルを考えることが、商品開発や人材育成につながるのである。
 

3.地元有志と外部専門家のチーム

  具体的には、地元の有志と専門家が連携しながらブランドを構築していく。
 最初の段階で、行政の方や協会、組合のにも手伝っていただき、地元のキーマンを巻き込むことが重要だ。みんなで面白いことをやろう、という意欲がなければ、何も進まないからだ。
 まず、その地域の歴史、文化などについて詳しい地元の人の話を聞くところから始めるのが良いだろう。地元を学ぶ地域研究のワークショップのようなものだ。公募して一般の方にも参加してもらう方法もある。
 「まち歩きツアー」も良い。これは、リーダーになってくれる人が必要だ。
 二泊三日程度の合宿形式にすれば、参加者同士のディスカッションもできるだろう。
 その中に、地元の企業見学や体験会なども組み合わせる。
 これらを何度か行った上で、ブランドの概要をプロデューサーがまとめ、プレゼンテーションを行う。
 この段階で、地域ブランド検討会等を組織しておく。そのメンバーにプレゼンテーションして、議論し、更にブラッシュアップする。
 地域ブランドのコンセプトが固まった段階で、ブランド名、シンボル、ロゴタイプ等を決定、発表し、参加企業、参加メンバーの募集を行う。地域ブランドコンセプト説明会をキックオフイベントにするのも良い。
 参加企業、参加メンバーとプロデューサー等が面談を行い、具体的な商品開発、事業開発、サービス開発、イベント等について協議しながら、スケジュール化していく。
 この面談では、地域ブランドに関する相談だけでなく、事業や業務について相談するのも良いだろう。個別の企業がコンサルタントと契約するのは大変だが、地域ブランド事業を通じて、第三者の専門家の意見を聞くことは企業経営にもプラスになるはずだ。
 

4.ブランドライセンスによる事業継続

 地域ブランド事業は、最初のスタートアップだけで終わってしまうことが多い。補助金等がなくなった途端、活動もなくなり、新商品をプロモーションすることもなく、試作品だけが残って終わってしまうのである。
 ファッションでは、シーズン毎に新しいコレクションを発表する。地域ブランドも少なくとも毎年新しいコレクションを発表するという計画が必要だろう。
 そして、ブランドを開発するだけでなく、具体的なマーケティング活動や広報活動等を進めていかなければならない。
 地域ブランドの所有権は、地域を代表する協会や組合、組織等に設定するのが良いだろう。そして、企業や団体は地域ブランドのライセンシーとなり、売上の一部をロイヤリティとしてライセンサーに支払う。
 この仕組みがないと、継続的な活動や情報発信ができなくなる。
 ファッションビジネスでは、ブランドイメージを訴求するために、マーケティング戦略や広報戦略を立案し、ショップデザイン、パッケージデザイン、グラフィックデザイン、WEBデザイン等のディレクションを行いながら、外部の専門業者と共に進めていく。
 こうした業務に慣れていない、製造業、農林水産業、飲食業、サービス業等の企業にとって、地域ブランド事業に参加することは、企業価値がワンランク上がることになるだろう。そして、単独ではできないようなマーケティング、広報、イベント、情報発信が可能になるのである。
 そして、それらの業務は、経営者や社員にも大きな経験をもたらし、新たなスキルが身につくのである。
 また、地元のデザイナー等も地域ブランド事業に参加することにより、レベルアップを図ることができる。
 地域ブランドとは、商品の売上よりも、そのプロセスを通じて、大きな成果を得るものである。それには、モノ作りや売上を性急に求めないことである。売れないモノを作れば、在庫になるだけである。それより、一人一人の体験や感動こそが資産になるのだ。
 

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