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Short story

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また読みたいなと思える、お気に入りの小説を集めています。
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first kiss

「この先、私の人生が仮にどんなに波瀾万丈であったとしてもね?」 ブランコから投げ出した足の先には、赤いコンバースのスニーカーが嵌まっている。軽いキャンバス地のそれは彼女にとてもよく似合っていて、ペダルをがんがんに漕いで、籐の籠の付いた白い自転車でちょっと遠くまで買い物に行くのが好きなそんな彼女にとって、最高の相棒と呼ぶに相応しい靴なのだろうと僕は感じた。 「私は、初めてキスをした相手があなたであることを思い出したら、きっとね、ずっと、自分は世界で一番幸せな女の子なんだって

『愛情は時々、薔薇の蔦の様に。』

愛情は時々、依存と束縛という形になる。 「自分のため」のはずなのに、「相手のため」という理由が行動する力となり、 それが失敗した時には、過度に自分を責めてしまう。 彼が、私の言葉や態度に振り回されてしまうことが分かると、 私は、彼ができるだけ安定していられるよう、言葉や態度に気を付けた。 「これでいいのだろうか‥。」と思いながらも、 彼が悲しむ姿を予想して、メッセージの最後には いつも笑顔の顔文字を付けた。 そんなことを続けていたある日、それは起こった。 彼は、仕事で

【掌編小説・たいせつにしすぎるとなくしちゃうよ】

 最近、なにかを落としませんでしたか?  何かを見通したかのように、後輩の黒田が聞いてきた。  なんで?  なんとなく、そんな気がして。  なんとなくで、ふつう、そんな気はしないんだよ、黒田。  そうですか。そういうものですか。  黒田とは、なんか根本的にリズムが違う気がする。時々いらいらさせられるのだけれど。気が付くと黒田の言った言葉をじっと考えている瞬間があって。  余白の時間が訪れるとその言葉を頭いっぱいにぐるぐる巡らせていたりする。  ほらね、って気づかされて訳もな

『ディスタンス―距離―』

生まれる前、私は母の中にいた。 生まれてから、父と母は私の手を握り、私たちは繋がっていた。 外の世界が、不思議で満たされていると知ると、私は両親の手を離し、外の世界へ腕を伸ばした。 それでも、二人と手を繋ぎたくて、二人を探した。 弟が生まれる前、私は祖母に預けられた。 いつも、祖母が手を繋いでいてくれた。 弟が生まれると、私の手はクレヨンを握っていることが増えた。 一人でできることが、えらいのだと知った。 小学生になると、学校に行き、習い事も始まった。 テストの点数