【感想】小説『でぃすぺる』
2017年に『屍人荘の殺人』で鮮烈なデビューを飾った今村昌弘。
2019年には実写映画化。
人気シリーズとして続編が2刊出ている。
2021年にはテレビドラマ『ネメシス』に脚本協力・トリック監修として参加。
やはり昌弘という名前の人に悪い人はいない。
そんな著者が『屍人荘の殺人』シリーズを離れて書いた新刊が『でぃすぺる』
主人公は小学6年生の木島悠介(ユースケ)
オカルト好きのユースケと同じ掲示係になり学級新聞作りを通して殺人事件の謎に挑むのが波多野沙月(サツキ)と畑美奈(ミナ)
ところで「ユースケ」という片仮名の表記はどうしてもダイアン西澤を連想してしまうw
つまり小学6年生×3人からなる探偵団。
江戸川乱歩の明智小五郎シリーズに登場する少年探偵団を彷彿。
(まぁ今やこの名称は『名探偵コナン』の方が人口に膾炙している気もするが)
作中でミステリー好きのミナが江戸川乱歩に言及する台詞が出てくるので、これは完全に意図的なオマージュだろう。
さらに殺人事件の謎には地元に伝わる7つの怪談が関わってきて金田一耕助っぽいテイストも。
しかもこの怪談話がなかなか本格的でちゃんと怖いw
古き良きとでもいおうか、自分が小学生の頃に図書館で初めてミステリー小説を手に取ったあの頃に戻ってワクワク。
ここでニクいのがミナの設定。
作中で初めてミステリー小説を読み、どんどんハマっていくというキャラクター造形。
彼女が一種メタ的にミステリーを解説する役目を担っている。
「なにげなく」
昨今「伏線」という言葉の誤用が目立つというかもはや言葉の意味が変わってきている中で素晴らしい。
他にも
アリバイ
動機
クローズド・サークル
リドルストーリー
叙述トリック
といった用語が丁寧に説明されている。
ただ、本作は使われている言葉の選定やそもそも漢字のふりがなが無い件など小学生を対象読者に想定しているとは考えづらい。
挙げ句の果てに「探偵の推理は本来胡散臭いもの」「自分たちが警察も摑んでいない犯人の証拠を見つけられる可能性はとんでもなく低い」という自己言及まで。
やはり初めてミステリー小説に触れるような層をメインに狙っているわけではなさそうだ。
そう、実はこれらの本格ミステリー要素は足場を固める前フリ。
(というのが読み終えた今となっては分かるw)
読んでいる最中は「小学生ならではの疑問だなぁ」なんて読者を油断させる材料になっているのだからズルい。
極めつけはクライマックス手前に登場するノックスの十戒(!)
ジュブナイル×オカルト×本格ミステリの謳い文句に相応しい宣言である。
ここまでの積み重ねを受けてのあの結末・真相をどう受け止めるかは評価が分かれるかもしれない。
ちなみにここに出てくる「魔女」が何者なのかは是非ご自身でお確かめをw
さて、こんな風にミステリーの定石を読者に意識させるミステリー小説といえば近年では2021年に出版された知念実希人の『硝子の塔の殺人』が思い出される。
新本格というジャンルそれ自体を一度解体して再構築した珠玉の一冊。
作中に名前が出てくる島田荘司と綾辻行人が現実世界でコメントを寄せているのが面白い。
また、実写ドラマ化もされた城塚翡翠シリーズは自ら「倒叙」を謳っており、作中・劇中で倒叙ミステリーの定義を説明する台詞がある。
そして時代は遂にミステリーに分類されることを忌避する所までw
まぁ冗談はさておき、やはりミステリーというジャンルが成熟した以上はこういうアプローチが必要になってくるのだろう。
そういう意味で自分は『でぃすぺる』の事件の真相には好意的な立場である。
願わくば小学生が読めるバージョンが出版されて主人公と同世代の子供たちにこそ楽しんでほしいなと思う。
続編では主人たちは中学生になり読者も彼らと一緒に学年が上がっていくなんてのはどうだろう?
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