見出し画像

【感想】小説『地面師たち ファイナル・ベッツ』

7/25(木)に全話一挙配信されるや快調にヒットを飛ばしているNetflixドラマ『地面師たち』

僕も大いに楽しみました。

しかし、皮肉にもこのヒットに隠れてしまった感があるのが原作小説の続編『地面師たち ファイナル・ベッツ』
(ドラマ配信の翌日に発売)

とはいえ、自分も正直読む前は面白いのかどうか半信半疑だった(ごめんなさい🙏)
それは地面師詐欺の手口が原理的になりすましの一択だから。
続編は前作とは違うまた新たな切り口!みたいな期待に応えるのはなかなか難しいのではないかと。
まぁでもそれだけで食わず嫌い(読まず嫌い?)はドラマ版をあれだけ楽しんだのにもったいないってことで読んだ。

結果、やはりクライマックスの交渉の席はどうしたって前作と被る。
今回の方が相手の弁護士が手強そうな印象はあるものの、

  • 偽造書類を見破られないか?

  • 本人確認の質問を乗り越えられるか?

というサスペンスのフックは同じである。
今回も干支が鬼門なのは笑ったけどw
西暦や和暦の年の数字よりも干支の方が覚えやすそうだけどなw
あと、なりすまし役がもっと酷いミスするシーンは「ん?もしかして計画が失敗してハリソン山中が逮捕されるエンドなのか?」と半ば本気で思ってしまったw

ちなみに前作のラストを踏まえて今作に登場するキャラクターはほぼ総入れ替え。

  • ハリソン山中は健在

  • 辻本拓海は刑務所の面会室から少しだけ登場

  • 辰さんは警察を定年退職済み

後藤や麗子は出てこない。

それにしてもドラマ版の影響でハリソンの台詞や言動が全て豊川悦司a.k.a.トヨエツで脳内再生されるのには参ったw
心なしかヤバさ加減が増してドラマ版に寄ってる気がするw
新キャラの佐藤サクラも池田エライザで脳内再生されてたな。

で、登場人物は刷新したものの手口は変えられない地面師詐欺でどう続編をやるのか?
本作は計画そのものが抱える制約と騙される側(堕ちる側)の心理に重点を置くことでその難題に回答している。

まず読み始めるや冒頭のカジノ(裏カジノではなくてシンガポールの合法カジノ)の描写に驚かされる。
約30ページに渡って繰り広げるバカラ。
自分は途中で「もしかして今回は『オーシャンズ11』よろしくカジノを騙すってストーリーなのか?」と思ったほど。

そういえばジョージ・クルーニーとブラッド・ピットが共演した映画『ウルフズ』は劇場公開が中止になってしまった…

洋画苦境の時代だなぁ…

閑話休題
実際はそこからIR誘致を絡めた北海道の詐欺計画に話が展開していくわけだが、読み終えて思うのはこの冒頭30ページのバカラのエピソードが今作の騙される側(ターゲット)の心理をトレースしていたという構成の妙である。

人は自分が見たいものを見て、信じたいものを信じる。
バイアスからは逃れられない。
今日ここまで負けているギャンブルも次こそは勝てると思うから再び賭けてしまう。

ちょうど今井むつみ著『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』を先日読んだばかりだったので一層あの描写が刺さってしまった。

「人は自身のスキーマから逃れられない」と言い換えてもいいかもしれない。
本作はハリソン山中はじめ騙す側も綱渡りで終始サスペンスの緊張感が持続している。
それは裏を返せば詐欺に気付いて撤退するチャンスが何度もあったということ。
しかし彼は会ったばかりの女性を盲目的に信じた上に父親への私怨めいた反抗心で判断力が鈍ってしまった。
「そんなはずはない。俺は必ずここで一発当てて父親を見返すのだ」と。
陰謀論の問題にも繋がる非常に身近で現代的なテーマだと思う。

また、上で「IR誘致」と書いたように高輪ゲートウェイ駅や東京五輪が現実世界でも決まっていた前作と異なり、今作は苫小牧のIR誘致はまだ決定していない。
劇中の知事選でもそこが争点になっている。
さらに前作ラストでシンガポールに逃亡したハリソン山中は指名手配されており容易には日本に再入国できない。
かなり不確実性の高い計画である。

本作にはそれを逆手にとった展開のツイストが仕込まれていて、これが面白かった!
クライマックスの詐欺の手口がほぼ同じならそこに行き着くまでの道中を二転三転させて魅せてやるという気概・矜持を感じる。

そして北海道×ハリソン山中といえば小説を読んだ人もドラマ版を観た人も期待せずにはいられない“アイツ”もしっかり登場w
(まぁでもあの問題は現実世界の方がより深刻かもしれない)

ドラマ版がこれを基にシーズン2をやるのかは不明ですが、読んで損は無い一冊です。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?