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「天城山からの手紙 52話」

森に生きる者達が命終わる時、誰が見送りしてくれるのだろうか?地に倒れ込み、まだ血の通うような姿でも、ただその場に居続ける。雨が降り雪が積もり、命始まる春が音を立てて過ぎて行っても、何もなく地に体を預けるしかないのだ。そして、時間が積もると共に新しい命が倒れた体に寄り添い、地に還る助けをし、その姿は、想いが形となり長い時間をかけて終わりまでの時間を巡らせる。寄り添う青い苔が体を覆うと、茶色い落ち葉の上で倒木は生き生きとした顔になり2回目の人生が始まったように見える。コケが形どるその姿は、想いが具現化したように私の感情をくすぐり、カメラを向けさせる。しかし、その姿と想いは永遠ではない。一年また一年と少しずつ想いの形は変わりその感情は少なくなっていく。時間とは一番非情で一番平等なのだ。誰でも与えられた時間は、同じように進み最後には無となる。この日、足元には真っ青に体を染めた1本の倒木があった。まだ、夜も明けぬ頃、その倒木と対峙していると、それを引き剝がすように、朝日の真っ赤な光が差し込んできた。みるみるうちに辺りは灼熱の炎に包まれ、真っ赤な色に染めあがる。その中を藻掻く様に苦しむ倒木は、募る想いを差し出して、すがる様に許しを請うているようだった。10分もすると真っ赤な炎は消え去り、残されたのは普通の朝。そして、倒木から小さな声が聞こえる・・・まだ、ここに居たいと・・・。しかし、終わりはいつか来るのだ。

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