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「天城山からの手紙 42話」

8月の半ばも過ぎる頃になると、少しだけ森の空気が変わる気がする。香りでも温度でもない何か雰囲気が違うのだ。それは、小さな小さな兆し。きっと、季節の変わる合図を森が教えてくれているのだろう。そして、この季節の狭間は、なんとも言えない安堵感で満たされる。なぜなら、今年も無事に時が過ぎ回っていると思えるからだ。日常の中では、当たり前の様に思うかもしれないが、やはりこの自然の巡りに生かされているのだと考えてみると、心を満たす何かがある。私にはそれが、安堵感としてやってくるのだ。そんな当たり前の事を忘れてしまうのもまた、人の悪いところ。是非、皆さんもたまには自然と存分に向き合ってもらいたい。そして、それが出来る自然があるのも、この伊豆の魅力で、守っていくべき財産なのだ。この日、そんな事を考えながら森を歩いていると、いろんな種類のキノコたちが顔を出していた。かわいいキノコはいないかな?と下を向いて歩いてばかりいると、肩も首も痛くなり顔を上げて頭を振る。そしてスッキリして目の前の展望を眺めると、はるか遠くまで見ることができた。しかし、視界の隅に小さな違和感を感じ、そこへ視点を合わすと、なんとも愛らしい時間が流れていたのだ。それは二人だけの時間。肩を寄せ合い景色を眺める後ろ姿は、すべてを優しく包んでいるように感じた。命とは素晴らしい。こんなにも小さな存在が感動をくれるのだから。私も負けてられないなと天を仰ぎ、次の出合いへと向かった。

掲載写真 題名:「愛の賛歌」
撮影地:伊豆稜線歩道
カメラ:Canon EOS 5D Mark III EF70-200mm f/2.8L IS II USM
撮影データ:焦点距離185mm F2.8 SS 1/60sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2014年9月15日 AM6:39


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