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「天城山からの手紙 49話」

この日、前日に見つけた”ツキヨタケ”を撮影したく夜の森を訪れた。ツキヨタケはブナなどの立ち枯れに寄生するキノコなのだが、名前から想像できる様に、夜になると蛍光色を放ち、闇夜に浮かび上がる面白い特性を持つ。例年9月中旬~10月中旬に天城で確認でき、毎年歩けばその辺に生えているのだが、今年、いざ撮影したいとなると全く見つからず、森のいたずらに遊ばれていた。やっとの思いで撮影できそうな立ち枯れを見つけたので、悦び勇み直ぐ翌日の夜に再訪となったのだ。夕刻、前日からのロケハンを共にした仲間と現場に向かい、闇に包まれるのをじっと待つ。そして、森が段々と闇に支配され始めた瞬、目の前には、ほんのりと茸が闇に浮かび上がり、緑色に肌を染め始めた。まるで闇から逃げまどう小さな光が身を寄せ合い、深まる闇から隠れる様に放つ光は、私達を深く魅了し撮影の成果という希望に大きな光を灯した。しかし、自然はそう簡単には撮らせれくれない・・。その後、本命の場所には、残念ながら光はともらず、何度シャッターを切ってもそこには何も写らなかったのだ。深い夜の森には、段々と重い溜息が木霊し、見上げては私に、幻の光を見せた。そんな中、道中にもう1か所見つけた場所に最後の望を託そうと、さっと幻を振り払い急いで向かい、その場所で願う様に3つのライトを消した。「天城よありがとう!」目の前には幻ではない緑色の光が浮かび上がった。だけど、ここは崖だ。しかし、もう何も言わず黙って皆三脚を立てていた。

掲載写真 題名:「待望の光」
撮影地:戸塚峠
カメラ:SONY ILCE-7RM3 FE 16-35mm F4 ZA OSS
撮影データ:焦点距離26mm F4 バルブ 139sec ISO1600 WBオート モードM
日付:2019年9月24日 PM9:02


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