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天城山からの手紙

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伊豆新聞で2018年10月より連載スタートした、天城山からの手紙-自然が教えてくれたことのアーカイブ記事になります。加筆訂正をし、紙面では正確に見れなかった写真も掲載。
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2020年7月の記事一覧

「天城山からの手紙」10話

「天城山からの手紙」10話



秋の盛りを彩った紅葉の葉は、晩秋が訪れるころにそれぞれの旅へと旅立つ。雨上がりの朝、渓谷へ行くと、雨に打たれて落ちた葉が、水面を彩ったり、岩に化粧をしたりと最後の花を咲かせるのである。そんな晩秋の装いに出合うべく、天城に流れる本谷川の上流へと向かった。渓谷に道はなく岩を渡ったり山肌を迂回したりしながら登って行くのだが、これがまた大変なのである。しばらくすると、大きな岩が流れの中に現れた。岩肌に

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「天城山からの手紙」13話

「天城山からの手紙」13話



この日、忘れもしない私にとって大事な一日となった。今でこそ、夜中の森を平気で歩いているが、この日は、初めて夜の森へ挑戦した日なのだ。駐車場へ車を止め、ライトを消して外にでると、真っ暗な闇に上から押しつぶされた。体中を恐怖が駆け巡った感覚は今でも覚えている。そしてそこから歩を進めるには、自分を騙すしかなく、ヘッドライトに照らされた一点だけに集中して「バカになればいい」と言い聞かせた。そして、初め

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「天城山からの手紙」12話

「天城山からの手紙」12話



冬の渓谷へ行くと、枝や岩に水しぶきが飛び、自然の造形美を作り出す。勿論、いろんな条件が重ならければできないのだが寒い地域では対外見る事ができるのではないだろうか。どうにか伊豆にもそんな場所がないか私はさっそく探しに出たのである。手あたり次第に各所を回って行ったのだがどうにもそんな光景に巡り合わない。だが、出合いというのは不思議なものである。何も考えず、撮影に入った渓谷が氷の造形で埋め尽くされて

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「天城山からの手紙」11話

「天城山からの手紙」11話



森が日に暮れる時、そこは熱い想いが燃え上がる。闇夜が来る前、森に生きる者達は、最後の足掻きをしているからかも知れない。天城の撮影をしていると、時の狭間に迷い込むときが多々あるのだが、一日の終わりの時間は往々にして森の特別な瞬に迷い込んでしまう。およそ20分ほどであろうか?真っ赤に燃える時間を過ぎると、その先は静寂に包まれた闇が待っている。何回歩いてもやはり暗い森に残されるのは気持ちのいいもので

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