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[第9節_富山vs川崎] -「4強」を越える富山はどんな姿か?-[20/11/14.15]

例年、川崎ブレイブサンダースは富山グラウジーズより勝率で大きく上回る。
しかし、2017.4月以降。この対戦カードの2連戦は5回連続で1勝1敗と痛み分けており、さらに昨シーズンでは富山は外国籍選手がレオ・ライオンズ選手(現名古屋)1人という状況で川崎に勝ったり、32点差で大勝した試合もある。

川崎は富山に対して相性が悪く、この対戦カードはいつも勝率通りの結果にならないのである。

過去にその点に関して上記の記事で解説しているが、今シーズンは富山のロスターやDFが変わっている。そのため、今節に関してはこの相性問題は無いものと仮定して解説していきたい。

相性を抜きにした「4強の一角」との2連戦。
そこで見えた、「4強」を越える富山はどんな姿か?について解説していきたいと思う。

1戦目-終始川崎が主導権を握り、富山を下す

1Q 22-18
2Q 22-17
3Q 23-18
4Q 18-25
川崎 84-78 富山

1戦目では終始川崎がリードをして主導権を握る展開で富山を下した。

川崎は前節の富山vs渋谷の試合をスカウティングしていたのだろう。
序盤、渋谷をトレースしたようなDFで富山を削っていく。
スコア上では肩を並べているものの、富山はまたも不本意な形での加点が続く。
この感じは前節の渋谷戦とほぼ同じだったがこの後の崩れ方が違った。

それは特に、宇都選手とマブンガ選手の個性の短所が色濃く出たものだった。

マブンガと宇都の個性

先に彼らの個性の長所を説明したい。
彼らの良さは「闘争心」や「気の強さ」といったところが挙げられる。
宇都選手はドライブとアシストで、マブンガ選手はスリーとペイントアタックでDFをねじ伏せ、それによって調子を上げていく。
2人とも追及を重ねた己の技に自信があり、緊迫した場面でも躊躇なく責任を背負って自身のシュートを選ぶことができる。

しかし、この「闘争心」はそのまま弱点になる事もある。

例えば彼らは(特に宇都選手は)シュートを決められた後、果敢にカウンター速攻を狙って素早くボールプッシュをする。
相手がシュートを決めた際に床に倒れているだったり、オフェンスリバウンドに過剰に人員を割いているだったり、もしくはアウトナンバー速攻を決められた場合は、逆に速攻を出せばこちらがアウトナンバーを創り出すチャンスである。

しかし、これは注意をしなければあるリスクがともなう。
例えばこのようにボールマンがまだバックコートにいる他のメンバーを追い越して1人でフロントコートに入った場合。

この瞬間(5秒のあたり)、富山でボールに触れる人間は宇都選手1人。
対して川崎の選手は4人がフロントコートに戻っている。
この状況は逆に1対4の状況と言える。
つまりカウンターを狙うのであればチーム全員の足並みがそろっている必要があり、一人のボールマンが3~4人戻っている相手に対して単身でフロントコートへ突き進んでいくこの行為は悪手なのである。(確実に抜き去って決めてこれるという確信があればいいし、多分あったのだと思うが)

宇都選手とマブンガ選手のこの仕掛けからターンオーバーやタフショットに繋がってしまうケースはこの試合ではよく見られた。

チームが失点(-2点)→ 分が悪い仕掛け(+0得点)→ミスして失点(-2点)

6点分の損失とも言えるこの一連の流れが非常に多かったように思う。
ではなぜ彼らはこのプレーを選択してしまっていたのか?

それが「闘争心」である。
不本意な悔しい失点の後、『すぐに点を取り返して相手を沈黙させる』、『いざとなれば自分の個人技ですぐに仕留める』という心理が見て取れるこのプレーは彼らの「闘争心」から来ているのだ。
それはチームを引っ張り、相手に脅威を与える強力な個性でもある。しかし、このように頑張り方を間違えれば合理的でない雑なプレーを選んでしまうこともある、「劇薬」とも言える個性なのである。

特に不安定だったマブンガのセルフコントロール

この試合。より乱れてしまったのはマブンガ選手だ。
彼の「闘争心」からくる『自分がやられたら自分で取り返す』という責任感が単発でタフな1on1やスリーを繰り返すこととなり、鳴らない笛にも順応出来ず、調子の上がらない彼のシュートで富山はオフェンスを消化していくことになる。

しかし、マブンガ選手の1on1やディープスリーは「ベース」ではなく、あくまで「スパイス」でなければならない。
チームオフェンスが機能している上での+αのオプション。もしくは相手の意表を突く、目先を変えるといった意図であればそれは良い。
が、この日のようにベースの部分にエラーが相次いだことによる負債を、ノッてくる前のマブンガ選手のそれで取り返すというやり方はすぐに後が無くなってしまう。

結果FGは5/13、ターンオーバーは7とスタッツも厳しいものとなった。
(ちなみに2017-18シーズンでは宇都選手が6本以上ターンオーバーした試合の勝率が0%という統計があった。中心選手にはこういうデータはつきもので、今年はマブンガ選手のこういう統計が出てくるかもしれない。)

川崎のダブルチームシフト

川崎のダブルチームのシステムはシンプルだ。
ポストアップとは逆サイドのコーナーのDFが挟みに行き、それに連動してウイングがコーナーへ、トップがウイングとトップの2人をケアするローテーションとなっている。

ポスト以外は4対3の状況なのだが、これには素早いパス回しが必要だ。
しかし、自分のシュートに固執しがちなマブンガ選手がこれを止めてしまう。

↑前田選手は「宇都へ回せ!」、宇都選手は「前田が空いている!」と言っているのがわかる。(そして宇都選手はわかりやすく苛立ってる)

富山の隠れキーマン

こういう時にしっかりとゲームを落ち着けられるのが富山のベテラン選手達だ。

オフェンスの重たい富山にとって貴重な連続スリーを決めてくれた城宝選手の活躍は言うまでもないので、ここでは敢えて水戸選手の貢献を取り上げたい。

彼の良さは得点能力があるにも関わらず、自分の1on1の見切りが早い点にある。経験値の高さから「どこまでが自分で得点でき、どこからが難しいのか」を熟知しているのだ。

これが今の富山には非常にちょうどいい。
彼がいることでパスの巡りが良くなり、無理のないシュートチョイスになるのである。

プレータイムは5分55秒と僅かであり(彼をもっと使って欲しいゲーム内容だったが)スタッツも1本のシュートミスと1アシストと目立たないものだったが、なんと劣勢を強いられていたこの試合で富山は彼がコートにいる5分55秒間で18得点しているのだ。(失点も10点)

彼がいかにスタッツに残らない部分でゲームに欠けている要素を補っているかがわかる。

2戦目-1戦目の問題点に対する富山の答え

1Q 19-27
2Q 16-26
3Q 23-21
4Q 24-19
川崎 82-93 富山

富山は1戦目の問題点を理解していたようで、2戦目ではしっかりと修正されていた。(さすが浜口HC)
立ち上がりでは各々のスペーシングと球離れが良く、マブンガも冷静な選択をする。

↑自分の1on1を引っ張りすぎず、シンプルに空いた味方へパスを出す宇都とマブンガ。スペーシングとパス回しに気を使う宇都と前田。

こういった個人が頑張りすぎない無理のないシュートで富山は充分得点できるし、それをクリエイトする能力を持った選手も多い。

結果、最初の5回のオフェンスで4回成功。
さらにこの時点で4選手が得点し、バランスの良い内容でのスタートとなった。

ダブルチームに関しては、最初のポゼッションでは敢えてノンシューターのスミス選手を外に置き、シューターのスクリーン役に配置。コーナーではなくスミスのDFが寄ったらスミス選手がゴール下へダイブという動きをしていた。
他にも外の1on1を匂わせながら早いパス回しでポストへ配球するセットプレーでダブルチームが来る前に攻略していく。

ウイニングショットを決めた橋本

この試合を決定づけたのは3Q終盤の橋本選手の連続スリーだ。(さらにその間のディフェンスではファジーカス選手を単独で完璧に守っている!)

ここでは3Q終盤のプレーがなぜ決定打なのかを説明していく。
3Q終了時点のスコアは74-58。
橋本選手のスリーがなければ68-58ということになる。10分で10点差ならば追いつくシナリオはまだいくつか考えられるが、74-58となると仮に川崎が4Qに30点取れたとしても88点なので富山を13点以内に抑えなくてはならない。

30分で58得点だったオフェンスを、最後の10分で30得点のクオリティまで引き上げなければならないのだ。
さらに、そこまでした上で富山のオフェンスを10分13失点に抑えるという難題も抱えるのだ。

4Qで16点差というのはそういうことなのだ。
だからこそ、このスリーは事実上のトドメだった。
(私は4Q観戦中、富山が90点目を入れたら勝ちだと思って観ていた。こんな見方をしてみても面白いと思う。)

「取らせてもらった」と思える部分もある

川崎のDFの強度は1戦目に比べるとかなり劣る内容だった。
運びに対する圧は比較的軽く、またダブルチームに関してもこんなミスがあった。

↑「お前が挟みに行かないとだろ!」とダブルチームに行くのが遅れた熊谷選手が指摘を受けているのがわかる。

ここは2日続けてDFの強度と精度を保てなかった川崎の反省点とも言える。
富山のようなチームには出だしから気持ちよく点を取られたり、オフェンスにポジティブなイメージを持たれてしまうと勝つのはかなり難しいだろう。

また、スミスの弱点であるアウトサイドのDFをアギラール選手が突くことができなかったのも大きい。(3FG 1/6。スミス選手はアギラールのスリーを割り切ってチェックせず、「捨て」にしていた)

今回の1勝1敗はこれまでと違う?

これまではどちらかと言うと、富山が相性の部分で躍動し、川崎の本来の力を沈黙させて1勝をかっさらうようなイメージだった。

しかし、今節の1戦目。これだけ不本意なオフェンスを強いられ、多くのターンオーバーポイントを献上しても78得点で6点差。
これは個人能力の点で富山は川崎をも圧倒しているという見方ができる。

逆に川崎の方が富山をノせないようなゲーム運びに神経質な印象で、個ではなくチームで戦っていくような強者に挑む挑戦者的なバスケットをしているように私には見えた。(あくまで私の主観の話で、これには大いに異論があると思う。)
少なくとも言えるのは、この両者の力関係は富山優勢な今の勝率の通り、変わって来ているのかもしれない。

「4強」を越える富山はどんな姿か?

富山のバスケットには宇都選手とマブンガ選手の「闘争心」が色濃く映っている。そんな得点能力にも秀でた彼らが多くボールを持ち、起点となり、同じく得点能力に秀でた他のメンバーを絡めて攻撃していく富山のバスケットは4強にも引けを取らない強烈な個性だ。

しかし、今回わかったようにその「劇薬」は用法・容量を守って正しく使わなければならない。
時には逆に周りが彼らをコントロールしなければならないのである。
特にその役割を多く担うのは比較的冷静な気質を持つ城宝選手や水戸選手、山口選手なのかもしれない。(HCも割と熱いタイプなので)

1戦目のように2人が不安定な時は「ジョータイム」のように周りがゲームを整えていく。
逆にチームが停滞したときには彼らが切り開き、勢いをもたらす。

そうして強烈な個性が正しい方向に活かされ、チームが上手く回った時。
富山は2戦目のように「4強」を上回るのだと思う。


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