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リメイク・浦島太郎2

写真提供:かさこ
https://kasakoblog.exblog.jp/

亀の背中に乗って。

ずんずんと海の中に潜っていく。

物語では、海に入っても太郎は呼吸が出来て

亀と話ができたけど

現実には違う。


当たり前だ。

俺は亀の背中にベルト括られ

酸素マスクから酸素を受け取りながら

急激な水圧に襲われ目もクラクラする。

途中で耳貫が上手くいって良かった。


それにしても、これ以上深海にいったら

ヤバいかもしれない。

竜宮城に着く前に死ぬかもしれない。


そんな不安を感じながらも

どんどん暗い深海に向かって亀は泳いでいく…

と、思っていたら

亀は急に上に浮上しだした。


「お兄ちゃん、これ亀ツアーのサービス。

こんな深海、なかなこれないでしょ。

自分一人じゃ潜れないからね、ここまで。

結構、お客さんに評判みたいなんだよね、深海体験。

でもね、なんも見えないでしょう。暗いだけ。

どこが良いんだか、俺なんかわかんないんだけどさー」

亀は一人上機嫌で泳ぎながら捲し立てるように話す。

「乙姫がね、絶対客に…いやお客様に喜んでいただけるからって

言い出してさ~。お兄ちゃん、どう?」

俺は言った。

「苦しいです」

亀は言った。

「だよね~」

「竜宮城って、別に深海に無いから。じゃないと、

暗くってなにも見えないし」


そりゃ、そうだ。

俺は特に嬉しくないけどね。

人間連れてって、楽しませるつもりなら

普通に呼吸できる場所じゃなきゃ。

俺は黙って亀の話を聞いていた。


その後も亀は一人で色々な話を勝手に話した。

亀の話はさほど面白いとも思えない

竜宮城のゴシップ話や、仕事仲間の愚痴

時々、目の前を横切る魚たちに声をかけながら

海の水が汚れて困る

海の水温が上がって、最近体調が悪い

そんなことを止めどなく話をしている。


海の浅いところを亀の背中に乗って

どこに向かっているのか分からないまま

どのくらいの時間が経ったのか分からないまま

俺は亀の行くままに進んでいる。

だんだん水の中を進んでいく感覚にも慣れた。

服が濡れている感覚もなくなって

もともと「そうだった」ような感覚になる。


上を見上げると太陽の光が差し込み

海の色は不思議なブルーとも言えない

グリーンとも言えない

グレーとも言えない色が広がっている。

そして海の中で生きる魚たちが

縦横無尽に自由に泳いでいる。

美しい影絵を見ているようだ。


「まるで夢だな」

俺はボソッとつぶやいた。

亀には聞こえてないようで

「お兄ちゃん、なんか言った?」

と言ったと思うと、また自分の勝手気ままな

話を俺が聞いてないことも構わず話している。


どのくらい過ぎたのだろう。

俺は遠くに赤い建物があるのに気がついた。

「あれですか?竜宮城?」

と俺が言うと、亀は俺の方を振り返って見ながら

「あたり、お兄ちゃん。もうすぐ着きまっせ」

というと、更に泳ぐスピードを速めた。


俺は赤い建物が近づいていくうちに

急激な不安感と、現実感が

自分を襲ってくるのを感じた。


妙に生々しい、いかにも人間が作ったような

イメージ通りの竜宮城。

全体的に赤く塗られ、所々に金や黒や

カラフルな色で装飾されている。

絵本で見た竜宮城のイメージそのまま。


俺は急に拍子抜けした感覚に襲われ

帰りたくなった。







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