Masaaki Morita

高校~大学レベルの数学・物理の教育と、一般相対論やそれに基づいた宇宙物理の理論的研究を…

Masaaki Morita

高校~大学レベルの数学・物理の教育と、一般相対論やそれに基づいた宇宙物理の理論的研究を行っています。この note では、教科書にはあまり書かれていない、理解の助けになるかもしれない小ネタや素朴な疑問への回答などを書いていきます。

マガジン

  • 線形代数のお役立ち記事

    線形代数の理解に役立ちそうな記事をまとめています。線形代数を勉強中の大学生や社会人の方の参考となれば幸いです。

最近の記事

相対性理論の「時間の遅れ」の数学

相対性理論のいわゆる「時間の遅れ」に関して、学生からこんな質問をされたことがあります: 「止まっている人(A)に対して運動している人(B)の時間は遅れるんですよね? でも、Bから見たら、Bが止まっていてAが運動しているのだから、今度はAの時間が遅れることになっちゃいますよね? おかしくないですか?」 これは相対性理論に関して「よくある質問」の一つで、これに対する最も端的な回答は「おかしくないです」ということになります。このことについては、相対性理論に関する教科書的な本を見

    • 一次変換と座標変換の悩ましい関係

      「行列と一次変換」は、かつての高校数学で大きなウェイトを占める項目でした。学習指導要領の改訂で項目ごと姿を消し、その内容を学ぶのは大学初年度相当の「線形代数」等の科目まで持ち越されることになりましたが、最近ではデータサイエンスの必要性が高まり、その基礎となる線形代数が重要視されつつあることを考えると、今後どこかで復活があるかもしれません。 その一次変換(または線形変換とも呼ばれます)にまつわる悩ましい問題を取り上げます。話を分かりやすくするために、かつて高校数学で扱われてい

      • 「ガウスの法則」と「ガウスの定理」

        高校で学ぶ物理の電磁気分野で「ガウスの法則」というのが出てきます。電荷と電気力線の本数の間に成り立つ法則です。少し古い教科書や参考書を見ると「ガウスの定理」と書いてある場合もありますが、「ガウスの定理」は電磁気の範囲に限らず、一般的なベクトル場に対して成り立つ数学的な定理を指す、と考えるのが一般的で、電場や電気力線に特化した文脈であれば「ガウスの法則」とすべきでしょう。しかし、「ガウスの法則」と「ガウスの定理」はしばしば混同されます。大学レベルの電磁気学を学んだ人であれば、こ

        • 数学・物理 ダジャレのコーナー

          ベクトルのところを講義しているときに、学生が「ノートはなるべくとるんですか?」とわざわざダジャレをふってくれたのに、ダジャレと気づかずにスルーしてしまった苦い思い出があります。 そういう学生の思いに答えるため、数学や物理に関するダジャレ集を作ってみました。思いついたときに随時更新していきます。自分で思いついたものと、以前に学生から聞いたものがあります。だいぶ無理気味のもあります。授業で使いたい方は、ご自由にどうぞ。ただし、スベった時の責任は各自でお願いします。 固有ベクト

        相対性理論の「時間の遅れ」の数学

        マガジン

        • 線形代数のお役立ち記事
          9本

        記事

          発散なしベクトル場がソレノイド場であることを導く

          この前の記事では「渦なしベクトル場と勾配場が同じものであること」を書きましたが、今回は 3次元ベクトル場 $${ \bm{A} (\bm{x}) }$$ について、以下の 1. 2. 3. が同値であることを説明します:  恒等的に   $${ \nabla \cdot \bm{A} = 0 }$$  である  任意の閉曲面 $${ \mathcal{S} }$$ に対して   $${ \displaystyle \oiint_{\mathcal{S}} \bm{A} \

          発散なしベクトル場がソレノイド場であることを導く

          渦なしベクトル場が保存場であることを導く

          理系の大学生が学ぶ基礎的な数学の中で、学生が苦手とするものに「ベクトル解析」があります。ベクトル解析は電磁気学や流体力学を学ぶ際には必須となりますが、ベクトルと微積分が組み合わされていて、学生には難解の分野であるようです。使われる記号も $${ \nabla }$$ とか $${ \oint }$$ とか見慣れないものが多数出てきて、理屈は二の次で計算の仕方に習熟するので精一杯、となりがちです。この記事では、ベクトル解析においてすっ飛ばされてしまいがちな部分での「行間を埋める

          渦なしベクトル場が保存場であることを導く

          定数係数 二階線形微分方程式の解法が成り立つ理由

          理系の大学生が基礎科目として学ぶ数学の中の重要なテーマの一つとして、「微分方程式を(比較的簡単な場合に)解けるようになる」ということがあります。物理が典型的ですが、それ以外の分野でも、ある現象を理解するために数理モデルをつくると、それが微分方程式で表される、ということがよくあるからです。その解法を知っておくべき基本的な微分方程式として、「定数係数 二階線形微分方程式」があります。例えば、大学で学ぶ物理の初めの方で出てくる、質量 $${ m }$$ の物体にばね定数 $${ k

          定数係数 二階線形微分方程式の解法が成り立つ理由

          ベクトルの内積に cosine が現れるのはなぜか

          高校数学でベクトルについて学ぶ際に、ベクトル同士の足し算や引き算、ベクトルのスカラー倍あたりまでは図形的に分かりやすく、楽しく学ぶことができたのに、「内積」という謎の掛け算が出てきたところで急につまづいた、という経験のある人はいないでしょうか? 具体的には、二つのベクトル $${\bm{a} , \bm{b}}$$ に対して内積という掛け算を $$ \bm{a} \cdot \bm{b} = | \bm{a} | | \bm{b} | \cos \theta $$ と定

          ベクトルの内積に cosine が現れるのはなぜか