見出し画像

定数係数 二階線形微分方程式の解法が成り立つ理由

理系の大学生が基礎科目として学ぶ数学の中の重要なテーマの一つとして、「微分方程式を(比較的簡単な場合に)解けるようになる」ということがあります。物理が典型的ですが、それ以外の分野でも、ある現象を理解するために数理モデルをつくると、それが微分方程式で表される、ということがよくあるからです。その解法を知っておくべき基本的な微分方程式として、「定数係数 二階線形微分方程式」があります。例えば、大学で学ぶ物理の初めの方で出てくる、質量 $${ m }$$ の物体にばね定数 $${ k }$$ のばねを取り付けたときの単振動の運動方程式

$$
m \frac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d} t^2} = - k x
$$

あるいは、上記に加えて速度に比例する抵抗力(比例定数 $${ \alpha }$$)が働く場合の運動方程式

$$
m \frac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d} t^2} = - k x - \alpha \frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d} t}
$$

のようなものが該当します。一般に以下の形をした微分方程式を考えます:

$$
y'' + p \, y' + q \, y = 0 \ ; \qquad ( \, \cdot \, )' = \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} x} ( \, \cdot \, )
$$

式中の係数 $${ p , q }$$ は定数であるとします。
「物理数学」あるいは「応用数学」といったタイトルのついている本を見ると、この手の微分方程式を解くときは「$${ y = \mathrm{e}^{\lambda x} }$$ とおいて $${ \lambda }$$ を求めよ」と書かれています。実行してみると、$${ \lambda }$$ に関する二次方程式 $${ \lambda^2 + p \lambda + q = 0 }$$ が出てくるので、これを解いて $${ \lambda }$$ を求めます。解が重解である場合には別にひと手間必要となりますが、ここでは解が相異なる二つの解 $${ \lambda_{1} , \lambda_{2} }$$ となる場合のみ考えることにします。このとき微分方程式の解は $${ C_{1} , C_{2} }$$ を定数として

$$
y = C_{1} \mathrm{e}^{\lambda_{1} x} + C_{2} \mathrm{e}^{\lambda_{2} x}
$$

と表すことができる、というわけです。もし $${ \lambda_{1} , \lambda_{2} }$$ が虚数の場合は、オイラーの公式 $${ \mathrm{e}^{i \theta} = \cos \theta + i \sin \theta }$$ を使って sine, cosine の式に書き直すことができます。

なぜこのようにして解けるのでしょうか? 本にもよりますが、このことはあまりきちんと説明されていないことが多いです。特に物理の本では、この解法を前提として書かれていることが多く、中には疑問に感じる人もいるのではないかと思います。この記事では、この解法がなぜ正当化されるのか、ということについて解説していきます。
なお、以下の解説は「二階の微分方程式を一階の連立微分方程式(の特別な場合)と見なす」ことによるものですので、連立微分方程式について書いてある本をお持ちの場合は、併せてそちらもご覧ください。

必要な準備的知識

初めに、必要となる準備的な知識について述べます。
まず定数係数 一階線形微分方程式

$$
\frac{\mathrm{d} y}{\mathrm{d} x} = a y
$$

($${ a }$$ は定数)の解が $${ C }$$ を定数として $${ y = C \mathrm{e}^{a x} }$$ と表せる、ということの理解が必要です。これは微分方程式の解き方を学ぶ際に最初に出てくる「変数分離型の微分方程式」として有名ですので、ここでの説明は省きます。

次に、行列の固有値・固有ベクトル、そして対角化に関する知識が必要です。正方行列 $${ A }$$ に対して

$$
A \bm{x} = \lambda \bm{x} \ ; \quad \bm{x} \ne 0
$$

となるようなベクトル $${ \bm{x} }$$ が存在するとき、$${ \lambda }$$ を $${ A }$$ の固有値、$${ \bm{x} }$$ を固有値 $${ \lambda }$$ に対する固有ベクトルといいます。固有値は、「行列 $${ (A - \lambda E) }$$ が逆行列を持たない」という条件 $${ \det (A - \lambda E) = 0 }$$ により求められます。($${ E }$$ は単位行列を表します。)これを $${ A }$$ の固有方程式といいます。
$${ n }$$ 次の正方行列 $${ A }$$ がすべて異なる $${ n }$$ 個の固有値 $${ \lambda_1 , \lambda_2 , \cdots , \lambda_n }$$ を持つとき、各固有値に対する固有ベクトル $${ \bm{x}_1 , \bm{x}_2 , \cdots , \bm{x}_n }$$ は線形独立となります。この $${ \bm{x}_1 , \bm{x}_2 , \cdots , \bm{x}_n }$$ を列ベクトルとして持つ行列

$$
P = \bigl( \bm{x}_1 \ \ \bm{x}_2 \ \cdots \ \bm{x}_n \bigr)
$$

を定義すると、この行列は正則なので $${ P^{-1} }$$ が存在し、この $${ P }$$ と $${ P^{-1} }$$ を使って

$$
P^{-1} A P = %\left( \begin{array}{cccc}
%\lambda_1 & & & \\
%& \lambda_2 & & \\
%& & \cdots & \\
%& & & \lambda_n
%\end{array} \right)
%$$
%$$
\begin{pmatrix}
\lambda_1 & & & \\
& \lambda_2 & & \\
& & \ddots & \\
& & & \lambda_n
\end{pmatrix}
$$

(対角成分に固有値が並び、それ以外の成分はゼロ)という形にできます。この操作を行列 $${ A }$$ の対角化といいます。

連立微分方程式と見なす

前節の知識を踏まえて、定数係数の二階線形微分方程式 $${ y'' + p y' + q y =0 }$$ の解法について考察します。
二階微分方程式である $${ y'' + p y' + q y =0 }$$ を、$${ u_1 = y }$$, $${ u_2 = y' }$$ とおいて、以下のような一階の連立微分方程式と見なします:

$$
\left\{ \begin{array}{l}
\displaystyle{
\frac{\mathrm{d} u_1}{\mathrm{d} x} = u_2 } \\ \\
\displaystyle{
\frac{\mathrm{d} u_2}{\mathrm{d} x} = - q u_1 - p u_2 }
\end{array} \right.
$$

このとき

$$
\bm{u} = \left( \begin{array}{c}
u_1 \\ u_2
\end{array} \right) \ , \qquad
A = \left( \begin{array}{cc}
0 & 1 \\
-q & -p
\end{array} \right)
$$

とおくと、連立微分方程式は

$$
\frac{\mathrm{d} \bm{u}}{\mathrm{d} x} = A \bm{u}
$$

と表すことができます。この行列 $${ A }$$ が相異なる二つの固有値 $${ \lambda_1 , \lambda_2 }$$ を持つとし、それらに対する固有ベクトルをそれぞれ $${ \bm{a}_1 , \bm{a}_2 }$$ とすると

$$
A \bm{a}_1 = \lambda_1 \bm{a}_1 \ , \quad
A \bm{a}_2 = \lambda_2 \bm{a}_2
$$

であり、$${ \lambda_1 , \lambda_2 }$$ は固有方程式 $${ \det ( A - \lambda E ) = \lambda^2 + p \lambda + q = 0 }$$ の解です。この固有ベクトル $${ \bm{a}_1 , \bm{a}_2 }$$ を列として持つ行列 $${ P = \bigl( \bm{a}_1 \ \ \bm{a}_2 \bigr)}$$ をつくり、$${ \bm{v} = P^{-1} \bm{u} }$$ となる $${ \bm{v} }$$ を考えます。これを逆に書いた $${ \bm{u} = P \bm{v} }$$ を微分方程式に代入することにより、微分方程式は

$$
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} x} \left( P \bm{v} \right) = A P \bm{v}
$$

となりますが、行列 $${ P }$$ は定数 $${ p, q }$$ で決まる定数行列なので微分はここには掛からないことに注意して、この式に左から $${ P^{-1} }$$ をかけると

$$
\frac{\mathrm{d} \bm{v}}{\mathrm{d} x} = P^{-1} A P \bm{v}
$$

となります。ここで、前節の対角化についての説明の通り、

$$
P^{-1} A P = \left( \begin{array}{cc}
\lambda_1 & 0 \\
0 & \lambda_2
\end{array} \right)
$$

と対角化されることから、$${ \bm{v} }$$ を成分表示して

$$
\bm{v} = \left( \begin{array}{c}
v_1 \\ v_2
\end{array} \right)
$$

と書くと、成分で書いた式は

$$
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} x} \left( \begin{array}{c}
v_1 \\ v_2
\end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc}
\lambda_1 & 0 \\
0 & \lambda_2
\end{array} \right) \left( \begin{array}{c}
v_1 \\ v_2
\end{array} \right)
= \left( \begin{array}{c}
\lambda_1 v_1 \\ \lambda_2 v_2
\end{array} \right)
$$

となって、$${ v_1 , v_2 }$$ はそれぞれ前節で述べた「定数係数 一階線形微分方程式」の解として与えられることが分かります。よって、$${ v_1 , v_2 }$$ は $${ c_1 , c_2 }$$ を定数として $${ v_1 = c_1 \mathrm{e}^{\lambda_1 x} }$$ , $${ v_2 = c_2 \mathrm{e}^{\lambda_2 x} }$$ と表せるので、$${ \bm{u} = P \bm{v} }$$ より

$$
\left( \begin{array}{c}
u_1 \\ u_2
\end{array} \right)
= P \left( \begin{array}{c}
v_1 \\ v_2
\end{array} \right)
= P \left( \begin{array}{c}
c_1 \mathrm{e}^{\lambda_1 x} \\ c_2 \mathrm{e}^{\lambda_2 x}
\end{array} \right)
$$

と連立微分方程式を解くことができて、$${ u_1 , u_2 }$$ は $${ \mathrm{e}^{\lambda_1 x} }$$ と $${ \mathrm{e}^{\lambda_2 x} }$$ の線形結合で表されることが分かります。こういうわけで、冒頭の解法が正当化されることになります。

定数係数 二階線形微分方程式の解法には、このように行列の固有値・固有ベクトルや対角化が深く関わっていることが分かります。「線形代数」等の科目で行列の固有値・固有ベクトル、対角化を最初に学んだときには、一体何の役に立つのか、と思った人もいると思いますが、このような使い道があるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?