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店をオープンするまで / (16)資金調達

(序文)

「店をオープンするまで」シリーズの(15)で店をオープンしたのですが、今回の記事はオープン前に遡って資金調達のことをまとめて書きました。有料記事とした後半は金融機関とのやりとりなど、資金調達のために準備したことと実際に金融機関と相対して経験したことを綴りました。

記事の価格「¥432」は当店のブレンドコーヒー1杯の税込価格です。当店にコーヒーを飲みにいらして、ぼくがカウンターでお話し差し上げているような気分で読んでいただけるとうれしいです。具体的な内容ですので参考にしていただける価値もあると思います。もしご興味がありましたら後半も、ぜひ。



(本文)

自分で店を開業しよう、と思い立って最初にしたことは自分のコンセプトの整理でした。何のためにやるのか。情熱の源流を明瞭にする作業です。

次にきちんと整理したのは、収支計算表でした。記録してある作成日は2017年6月7日。「よし。進める。」と決めたのが6月4日のことでしたから早い段階だったものの、詰まるところ商売として利益が出なければコーヒー屋を続けられません。まずは数字でその見通しをもちたいと思ったのです。

収支計算表を構成する大きな項目は売上、経費、損益の3つです。損益は売上から経費をマイナスしたら出てくるものですから、考えて数字をつくるのは売上と経費の2つです。

まずは経費の積算。とはいえ、なにしろ進めると決めてから3日しか経っていませんから、メニューを始めなに一つ決めていなかったわけですが、そこはもう妄想です。収支計算表のdraft(下書き)シートには「講座」なんて経費項目も設けていました。

ですが、毎月の固定支出として大きな額になる「家賃」が明確になったので、経費の積算が現実味を帯びました。あとは妄想ながら、なんとなくアタマのなかで描いている営業スタイルを思い浮かべて商品を作成するための原材料(主にコーヒー豆)をリストアップ。そこから派生して、商品を作成するための消耗品(ペーパーフィルターやテイクアウトカップなどなど)、水道光熱費、店舗保険料など一つずつリストアップ。調達金額はとりあえずすべて定価で書きました。

当時の資料をみるとこの段階で「減価償却費」まで計算していました。自分のことながら失笑しますが、物件に出会うまでのうだうだ期間にくらべればこの「前のめり度合い」は褒めてやろうかという気になります(笑)。

この辺り、ぼくは会社員時代に10年以上は企業会計というものに向き合っていたので積算作業はスイスイと進められましたが、大事なことは項目の分類やちょっと専門的な経費の計算などではなく、一つずつ経費を洗い出すことです。この段階では精度が低くても問題はなく、まずは書き出して、表にして、自分自身に開業の現実味をもたせることが一番の狙いです。

経費が積算できると、どれだけ売上をつくる必要があるのかが明らかになりますね。ここはまだ数字遊びでよいので積算した経費よりも大きな売上額を入れて利益が出るように計算します。もちろん自分の報酬(給料)や税金、自宅の家賃なども加味してなお利益が出る(手元に現金が残る)だけの売上額を入力します(ちなみに、数字のあれこれは表計算ソフトのExcelを使っていますので、その前提でお読みください)。

ここでも物件の場所が具体的になっていることは重要な要素で、あの場所でこれだけの売上をつくれるのだろうか? という問いが自然と頭をもたげますから、その難易度を自分なりに判定して、難しそうならその売上をつくれるだけの集客を見込めるメニューを考えたりして積算の精度を高めます。

ぼくの場合、売上のシミュレーションとして、ドリップコーヒーのご注文を受けてからご提供するまでに1杯あたり5分の時間がかかると見積もりました。60分の枠で考えると12杯ですが、その間にドリッパーやサーバーの洗浄も必要になりますから、その分の時間を差し引いておおよそ60分に8杯は販売できるだろうと仮定。仮に、コーヒー1杯を400円とすれば60分で売り上げられる最大額は3,200円です(もちろん、ほかにコーヒー豆の販売なども考えられるのですが、ここでは見通しを単純化して分かりやすく考えるために、ドリップコーヒー販売以外の要素は入れませんでした)。そこから、店の営業時間を10時間にしたらどうか、月に営業日数を25日にしたらどうか・・・といったように、現実味のある仮定の条件を考えて売上のシミュレーションをしました。蛇足で書くと、目標とする売上額の設定は、前提条件なしに売上として「欲しい額」をドンと決めてから、そこに売上実績を到達させるにはどのように行動するべきか(営業するべきか)を考えていく、というトップからのアプローチもあります。ぼくのシミュレーションしたやり方はボトムからの積み上げ算式で、堅実ですが野望を大きくもてないアプローチです(笑)。まあ、組み合わせて検討すればよいのですが。

こうして積算作業をして必要な経費が出てくると開業の現実性が自分に突きつけられることになります。その現実を目の当たりにしてもなお自分の情熱は燃えたままなのかと。この作業は自分で自分の決心を試す意味合いもありました。

さて話は戻りますが、売上と経費を積算して妄想ながらも一応数字で見えるようになる利益というのは、毎月の営業見通しです。その月に、これだけ売上を上げて、これだけ経費を使い、残る利益がどれだけなのかという話です。最初に事業の見通しを立てるにはやはり毎月のイメージをもちたいですから、収支計算表をつくったのには意味がありました。

一方、これと似て非なる計算表が資金繰り表で、個人事業をしていくにはこちらのほうが重要です。積算に時間がかかるのでぼくは資金繰り表の作成を後回しにしましたが、こちらを最初につくる人もいると思います。後回しとはいっても、ぼくも収支計算表をつくってから10日後くらいには資金繰り表もつくりました。

資金繰り表も、収支計算表でリストアップしたものとほとんど同一の項目が使えますので表として似ているのですが、もっとも異なる点は「キャッシュイン/キャッシュアウト」の観点で、これがないのが収支計算表、これがあるのが資金繰り表です。

キャッシュイン=入金、キャッシュアウト=出金という意味で、おカネの出し入れですね。キャッシュインはもちろん売上入金です。キャッシュアウトは家賃を始め、仕入れたコーヒー豆や備品などの購入代金といったおカネの出金です。個人事業の飲食業ですから基本的には売上はレジでお会計をして、お客様が現金でお支払いになったなら即時入金されますね。キャッシュアウトもほとんどが現金購入になりますので即時出金です。

他方、売上についてはキャッシュレス会計システムを導入していればレジでのお会計の際に現金のやりとりはなく、後日クレジット会社などから店の銀行口座に入金されます。出金のほうも掛売りしてくれるお取引先があるなら出金は購入の後日になります。クレジットカードでの購入も同じですね。事業を営んでいるとこのように、物を売った瞬間におカネが入らない場合があり、物を買った瞬間におカネが出ていかない場合があります。

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たとえば、画像の資金繰り表を参照しながら考えますと、いまが「9月」だとして、毎月の末日が家賃の支払い日だったとします。実際にキャッシュアウトしますね。仮に家賃を500円としましょう。そして月末に支払わなければならないのは家賃だけでなく、コーヒー豆の仕入代金も500円ありますし、ほかに資材もあれこれと300円分買っていて支払いはやっぱり月末。合計で1,300円のおカネが必要です。

一方のキャッシュイン。お会計した総額(=収支計算表の売上合計)が9月は1,500円だったとしましょう。この売上がすべて即時入金されるのなら1,500円のキャッシュから1,300円の経費を支払うことができますが、実は売上の半分に当たる750円がキャッシュレスの売上で自分の手元には現金が750円しか入っていません。キャッシュレスで売り上げた分の現金は、月をまたいだ翌月5日に口座へ入金される決まりです。あれ・・・支払わなければならない1,300円に対して550円ものおカネが足りませんね。これを130,000円の債務に対して55,000円もの支払資金が足りないと想像すると急にゾッとします。

・・・というように、単純に売上1,500円−経費1,300円=200円が利益になると捉える収支計算表ではその月は利益が出ていておカネがある・・・ような見た目になりますが、実際には支払いを済ませるために550円も足りません。いわゆる勘定あって銭足らずという状態ですね。

もちろん貯金もあるでしょうから貯金からおカネを回して支払いに充てることができますが、そういうことが毎月月末になって判明するというのは心臓に悪いです。そして、心臓に悪いだけなら営業は続けられますが、なんらかの理由で支払いに充てられるおカネが月末にそろえられないケースも考えられます。

そして、売上が思うように上がらず入金が先細っていく状態になることも考えられます。いまが「9月」だとして、現実には資金繰り表の「10月度現金回収」(黄色に着色)の枠に10月に現金で売り上げる予定の現金回収額があるはずですから、黄色の枠にその見通しの額を入れると「10月度翌月繰越金」の状態が変わりますが、支出をまかなえるだけの回収が見込めるのかどうか、これは売上次第。こういうことの見通しを立てるのが資金繰り表の機能です。おカネがないと死にますので資金繰りは何より重要です。

ぼくの場合、これから開業するという段階でしたから初期投資が必要でした。物件の契約にかかるおカネ、店内の内装を造作してもらう施工費用、商品をつくるための機械類を購入する費用など、購入時に1回発生するだけで済みますが費用は多額です。まさに先立つものが必要ですね。

さて、日にちが前後しますが、初めて物件を案内してもらったのが2017年5月25日で、そこからあれこれと考えの風呂敷を広げるなか、5月29日にはかるくリサーチをしてどんぶり勘定的に初期投資の資金と運転資金で500-600万円くらいは必要になるのかな、という感触を得ていました。ぼくは手元に自己資金をもっていましたがこの概算したおカネの全額をまかなうほどには無く、他から資金を調達しなければならないと考え始めました。

さっそくアポイントを取りつけて6月2日には金融機関を訪問。もちろん融資の相談で、訪ねたのは・・・


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