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episode 2 「違和感しかない」〜昨日まで最大の競合だった組織の責任者になる〜【中編】

<<前編 完結編>>

先日の顔合わせでひととおり話が盛り上がり、「一緒にやっていけそうだ!」と思った相手は、次に会うと口々に「辞めます」と言ってくるのです。

主に辞めると言って来られるパターンには三通りあったように思います。
一つは、にわかには受け付けられないという方。
多くを語らず「考えられないです」「驚きました」「不安です」を繰り返す方が多いと思います。
驚きや悲嘆が先行して、冷静になれないフェーズという整理ができるかも知れません。

ただ、このような方々には、何よりもまず冷静に、安心してもらうように、話をよく引き出して聴くことに徹するのが最も効果があるように感じました。
少なくとも、一方的に語ったり、なにかを説得したりするのは意味がありませんし、拙速に結論を導き出して決着をつけようとすることは逆効果だと思います。

もう一つのパターンは感情的に一緒には絶対できないと主張されるケース。
憎悪や怒りが先行している状態と言い換えられるかと思います。
統合の意義を「単なる2番手企業潰しだ」と捉えていたり、「これからどうせひどい処遇を受けるのだろう」「様々なことが不公平な取り決めになるに決まっている」など、不信感がとても大きくなっている点が特徴的です。

この状況の方には、誠意を持って、統合の真の狙いと、今後の対応の方針をきちんと伝えてゆくことが大事です。
ここで変に気を使ったり遠慮をして、耳障りのいいことを言ってしまうのは一番良くありません。
相手の怒りの対象をよく聞き、想像力を働かせ、共感の心を持って聴くこと。
そして、話をする相手に対して、安易に賛同するのではなく、正対して話をすることです。
つまり、やるべきことをやるし、できないことはできないと言う。
ただ、それがなぜなのかをできる限り細やかに、考えた経緯も含めて話します。
本当のことを、丁寧に伝えてゆきます。

怒りを持つ方ほど、腹落ちすると、信頼関係に繋がってゆきやすかったりもするようです。
また、統合においても大事なのはやはり、ミッションとビジョンなのだということを強く感じさせられるのも、このパターンの方とお話をする時です。

そして最後の一つ。
互いに一定程度気心が知れ、それなりの信頼関係ができつつある過程で最もよく起きがちなこのパターンは、対応が一番難しく、それでいてPMIの成果に与える影響もとても大きいものだと思います。

このパターンの方の代表的なセリフはこうです。

「統合の狙いも腹落ちしたし、信頼できる人もいる。だから統合には全面協力します。でも、自分は引きます。」

達観し、周囲やプロジェクトを一番に慮っているようで、しかし自分は別と置くこのパターンは、実力と自信、そしてプライドがある方に多い反応です。
言い換えれば、最も会社と組織と人を愛し、思い入れを持っている人でもあると思います。
だからこそ、競合に吸収されることが誰よりも許せず、そして統合された今、この会社にいる目的がなくなってしまったと思う人たちです。

このパターンの方の難易度が高いのは、説明や意義、ロジックではどうにもならないこと。
でも、もし新たな目標を見出し、残ってくれれば、必ずや大きな力になる人でもあります。

私が経験したこの時のPMIで出会った彼は、まさにそういう人でした。

その彼は、PMIの過程の中で、多くのメンバーを私と引き合わせてくれました。
誰がどんなメンバーで、どういった力があるのか、どんな活躍をしてきたのか、どんな失敗談があるのか、時にエピソードを交えて紹介をしてくれます。
毎夜、別々のグループのメンバーを数人ずつ調整して、飲み会も開いてくれました。
私が一人、フロアの窓際の席で所在をなくしている時も、彼はフラットに私に声をかけ、食事やミーティングに誘ってくれました。

メンバーから信頼され、組織の中核にいるまさに"キーマン"。

しかし、初めてサシで飲んだ時から彼の反応は一貫しています。

「ありがたいんですが、残ることはできません──。」

その堂々たる体躯のとおり、押しても引いてもびくともしないのです。


(完結編へつづく)

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